学部・研究科・附属病院の歴史
学部・研究科・附属病院の歴史
名古屋市立大学地域医療教育学 教授
大原弘隆 (S59卒)
我々が卒業した当時の35年前には、城北、城西、東、守山、緑の中小規模の5市立病院がありました。その後の名古屋市立病院の統合・再編によって、各々約500病床を有する名古屋市東部医療センターと西部医療センターが作られ、それぞれの特色を生かす市民病院となりました。近年、少子・高齢化の進む日本の医療変化により地域医療構想が国から打ち出され、より高度な先進医療を持続可能に提供することが求められています。このような折、令和3年4月に向けて、東部医療センターおよび西部医療センターの名古屋市立大学附属病院化を進めています。これによって、より高度な先進医療を市民に対して提供することが可能となり、また1800床を有する大学病院群において優秀な医師の人材育成が可能となります。現在、持続可能な制度の確立に向け、ハードおよびソフト面での充実に最大限の力を注いでいます。第4期中期目標が終了する約10年後には、他都市にも自慢できるきっとすばらしい大学病院群が確立されていることを期待しています。
副病院長(教育担当)
総合研究センター長
松川 則之
新たな専門医制度が開始され、卒後いずれかの専門医資格を習得することが臨床医の明確な目的になりつつある。サブスペシャリティー取得や博士号修得など、一線の医療人として活躍するために、卒後約10年にも及ぶ時間をかけた確固たる知識・技術や精神的修練が臨床医の基盤形成として必要となる。
一方、段階的に導入された新カリキュラムに従い医学教育を受けた第一期生が2020年度末に本学を卒業する。本カリキュラムでは、座学による知識ではなく、より実践に即した臨床能力を卒業時までに習得することを目的とされ、卒業要件として臨床実習後客観的臨床能力試験(POST-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination; POST-CC OSCE)が課せられる。これらのことを踏まえ、学生教育から卒後約10年までの長きに渡り有機的に連動しながら、確固たる臨床能力獲得に向けた医療人教育が必要になる。
現在名古屋市立大学病院および関連施設では、毎年60名余りの初期研修医を迎え、救急医療、内科・外科などしっかりとした基本領域研修を基盤とし、大学病院の特色の一つである全診療科に集う専門医集団が、熱意をもって若き医師の育成に努めている。初期研修終了後には、専門医資格取得に向けて大学病院・関連施設の専門医プログラムを選択し、将来の医療・医学を支えうる医療人になるための修練を積んでいる。
今後、学生時代から大学研究室・大学病院診療科や関連施設との交流を深め、今以上に多くの情熱を持った若き学生が、医師として初期研修・専攻医プログラムに率先して集う環境にしたい。そのためにも、昨年から開始した総合研修センターと全診療科研修委員によるきめ細かい初期研修医指導体制を継続したい。更に、各診療科・研究室において、専攻医が満足しうる具体的な目標を設定した専門医プログラムの更なる充実、そして他施設には負けない特色のある診療技術や研究の発展に向けた努力を積み重ねることが必須となる。
卒前教育と卒後約10年間の修練を基に、本学に集った若き医師たちが国内に限らず世界に羽ばたいて活躍しうる気概と、そして将来本学・本大学病院を担うべく医療人へ飛躍することを期待したい。
本コースは、「医学研究を志向する優秀な医学部学生に対し、早期に研究の機会を与えることによって、医学・医療の急速な進歩と社会情勢の変化に対応できる若手医学研究者を養成することを目的」とし、平成20年(2008年)に設立された。元々は「学生教育に役立てて欲しい」という趣旨のご寄付を川久保己代子様から受けたことを契機に(川久保奨学金)、学生委員会が中心となり「医学研究者育成のためのMD-PhDコース」の設立に至った。
学部期間の前期コースと大学院期間の後期コース(3年で修了)で構成され、コース希望学生は、前期コースは4年次9月末までに基礎系分野に所属して研究を開始し、授業後、休日、夏休み期間を利用し、英語原著論文の発表など一定の研究能力を修得し、前期コース終了時には「前期コース修了審査会」を実施している。また後期コースは、国家試験合格後の8年目までに基礎臨床を問わず大学院博士課程に入学し、研究能力をさらに育成している。平成28年度から学生委員会から大学教務委員会へ管理が移行し、後期コースの所属が臨床系分野でも可能となった。
川久保奨学金は、前期コースに所属する学生の希望者に対し、最大15名まで一人当たり年間10万円を研究奨励費として授与している。また、後期コースに基礎系分野に所属する場合には、入学金及び3年間の授業料が授与され、経済的な心配は最小限とし研究に専念できるように制度設計されている。
MD-PhDコースの前期コースに所属した学生は、これまでに合計79名おり、後期コースに所属または海外留学中のメンバーもでてきている。幾つかの課題は残されているが、将来彼らが本学の研究レベルをさらに発展・進化させることを期待している。
(文責:飛田 秀樹(前大学院教授))
Beyond the Resident Project (BRJ)は医師として必要となる基本的な臨床スキルを学生のうちに身につけることを目標とした学生活動です。名市大には医療系学部の学生が協力して医療を学びあう活動・文化が根づいており、“通常カリキュラムの枠を超え深く実践的に臨床を学びたい”という医学部生の声を受け、2015年に当時の城卓志病院長のご指導の元有志の教員と活動を開始しました。低学年にも活動の幅を拡げ、2019年度から選択科目として医学部カリキュラムに掲載を頂きました。2020年3月までに5期105名が活動を修了しています。
BRJでは参加学生に「自主的、積極的な姿勢で臨む」「学んだことは学生間で引継ぎを行う」を約束してもらっています。運営は学生の自立性を重視し、学生の希望から当直実習やへき地医療研修、子育て中の女性医師とのランチ会、といった企画が次々と生まれました。最近では医師となった卒業生も指導に参加してくれており、スキルの修得に留まらず、理想の医師像やキャリア形成を考える機会にもなっています。
BRJは名市大の学生が長年培った自ら学ぶ文化、高度・地域医療教育研究センター設立による関連施設での教育体制の充実、そして名市大の医師がもつ医療への温かさと後輩育成への情熱が融合してこそ成り立つ活動に思えます。先輩方が創り上げてくださった伝統を活かし、名市大医療人としての自覚と母校への愛情が涵養し、未来に繋がる活動にしていきたいと思います。引き続き活動へのご理解を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
高度医療教育研究センター
高桑 修
令和元年度 M5修了式の記念写真
脳神経科学研究所神経毒性学分野教授、診療班代表
酒々井眞澄
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所はボランティア活動を通じた社会貢献を目的とし平成10年に蝶ヶ岳(2,677m)山頂直下にある蝶ヶ岳ヒュッテ内に設置されました。本診療所は高地医学、遠隔地医療および環境保全に関する研究・教育の場としての役割も備えており、毎年7~8月に学生、教員、卒業生などが診療活動に参加しています。蝶ヶ岳山頂から医師の常在する場所までは徒歩で片道5時間を要するため本診療所は登山者にとって多大な恩恵となっており、平成28年に北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会より当該診療所の功労に対して感謝状をいただきました。昨年は、患者109名(高山病28%、外傷20%、筋肉痛・関節痛18%、虫刺症7%、その他27%)の診療を行い、スタッフ60名(医師44、看護師10、理学療法士・救急救命士等6)と学生87名が活動に参加しました。ヒュッテ内で行われる雲上セミナー(期間中17回実施)では「高山病の症状と予防」などのテーマで安全登山を啓発しています。これまでに「蝶ヶ岳での登山中の水分摂取量と急性高山病発症との関連」など4報の研究論文掲載(雑誌「登山医学」)と2件の研究費(学術振興会奨励研究)獲得の実績があります。安曇野日赤病院とは下山後の患者フォロー、松本市相澤病院とは重症患者受け入れ、長野県警察本部航空隊とはヘリコプターでの搬送などの連携事例があります。診療班ではこれまでに約3,000名(例年約130~200名)の患者の診療に携わってきました。活動の様子は新聞やテレビ番組でも取り上げられ、社会貢献として大きな意義があると認知されるようになっています。本年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で診療活動は中止となりましたが、収束後の再開をみすえて準備を怠らぬようにしています。学生、教員、卒業生、関係者の皆様には今後もサポートを何卒よろしくお願いします。
蝶ヶ岳ヒュッテ正面に診療所があります。
先進急性期医療学
松嶋麻子
ドクターエイドは、2016年に設立された本学独自の学生による救命救急センターのアルバイト制度です。当時、「断らない救急」を表明して救急搬送の受入れを増加させていましたが、増える患者に現場のスタッフが追い付かず、人手不足が深刻でした。そんな中、当時の大原救命救急センター長と城病院長のもと、意欲のある学生を救命救急センターのアルバイトとして活用する、という提案が実現しました。以前より、医学部低学年の学生を中心に、早い段階から医療に貢献したいという声がありましたが、医療現場へ出るのは高学年の臨床実習であり、それまでは個人で行く病院見学に留まっていました。その状況で、病院のパート職員として学生に募集を出したところ、すぐに数名の医学生・看護学生から応募がありました。さらに、業務内容が医療の知識を必要としない医師・看護師のアシスタントであることから、学部・学年を問わずに門戸を開いたところ、薬学部、人文社会学部、芸術工学部、他大学の学生からも応募がありました。
救命救急センターは重症から軽症まで様々な患者が搬送され、時には人の死にも立ち会う過酷な現場ですが、ドクターエイドとして勤務する学生は真摯に業務に向き合い、今や私たちの大事な戦力となっています。2019年には約40名の学生が所属しました。彼らは将来、医療に限らず様々な分野へ進むことになりますが、救命救急センターのアルバイトで学んだ医療の知識、そこで得た発想が新たな研究やビジネスに発展することを楽しみにしています。同時に、彼らが、救急医療の現場で出会った人々、社会的立場の弱い人々への思いやりと課題を解決するための行動力をもった社会人として名市大の救命救急センターを巣立っていくことを願っています。
脳神経科学研究所(Institute of Brain Science)(略称:脳研、IBS)は、令和元年10月に医学研究科に設置された。脳研の前身は昭和62年に設置された分子医学研究所であり、平成4年に現在の脳研も使用している7階建てのビルが完成した。平成6年までに生体高分子部門、生体制御部門、分子遺伝部門の3部門体制となり、平成15年には、大学院化に伴い、これらの研究部門は、それぞれ生体防御学分野、分子神経生物学分野、細胞分子生物学分野と名称変更された。平成15年に分子毒性学分野設置、平成19年に生体防御学分野は展開医科学分野へと名称変更され、また再生医学分野が新たに設置された。平成26年に展開医科学分野は遺伝子制御学分野に名称変更された。
脳研開設に伴い組織改編が行われ、認知症科学分野、グリア細胞生物学分野、神経発達症遺伝学分野、神経毒性学分野、神経発達・再生医学分野の5分野体制となり、道川誠医学研究科長が初代所長に就任した。
脳研では、超高齢社会で増加する認知症などの加齢脳疾患、社会的に大きな関心が寄せられている発達障害等、様々な脳神経疾患の発症機構解明と予防・治療法開発を目指し、脳を構成するニューロン・グリア細胞の機能解明や毒性評価、幹細胞による神経再生技術の開発など、神経科学領域における先進的・総合的な研究を推進している。
さらに、附属病院と連携したトランスレーショナルリサーチのためのバイオバンク設置、将来薬学研究科・理学研究科等と連携可能な施設整備など、長期的な発展を目指した改革を進めている。
医療人育成推進センターは、卒前教育・卒後教育に関わる企画・提案・運営・実施等を担い、一貫した人材育成に寄与することを目的として、2018年に設置されました。道川研究科長をセンター長、小椋病院長を副センター長として、カリキュラム企画・運営委員会、総合研修センター、医学教育に関連する分野から選出された委員で構成されています。
医学部の教育プログラムにおいては、モニタリングの役割を担っており、プログラム企画組織に対して、情報を提供し、教育プログラムの改善を図っていく組織となります。
本センターが将来的に果たす役割は広く、①教育手法・方法の開発・提案、②学生授業評価方法の改善・提案、③多職種連携教育の企画・運営、④教育関係ファカルティ・ディべロップメント(FD)、セミナーの企画・運営、⑤教育インスティテューショナル・リサーチ(IR)の実施、⑥在学生、卒業生、臨床研修医の進路支援など多岐にわたります。
2019年に受審した医学教育分野別評価でも役割の重要性が認識され、医学部学生へのアンケート、在学中の成績、医師国家試験の合否、進路、将来のキャリアなどについて今後、IR部門によるデータを元にカリキュラムの改善に役立てていただけるよう提案してまいります。
FDによる教員の教育能力のさらなる向上をめざして、ワークショップなどを企画しております。本稿執筆時には、新型コロナウィルス感染の拡大によって、FDは行いにくい環境にありますが、WEB講義の提案と効果についての検証を行っていきたいと思います。
卒業生、名古屋市立大学病院の研修医、専攻医の皆さんが将来にわたってキャリアアップを継続できるよう教育の充実に向けてモニタリング、教育支援活動を行っていきたいと思いますので、ご支援とご協力いただきたいと存じます。