卒業生の声
カナダ留学で見つけたスタイル
「名市大経済学部の卒業生として、私が登場しても問題ないんですか?」と笑いながら語る犬飼佑馬さんは、名市大経済学部を2009年に卒業した。謙遜する理由は、本人曰く「高校時代は理系クラスで、大学に入るまで経済学にはほとんど興味がなかったから」だという。
高校時代に彼がめざしていたのは、ものづくりについて勉強ができる学部。
「ものづくりの中でも、クリエイティブに関する勉強がしたいと思っていました」
しかし現役での受験に失敗した彼は、浪人して1年後の雪辱を期すことに。しかし翌年の、後期試験の前に突然「文転」して名市大の経済学部に進むことを決めた。
「経済を選んだ理由は、私は数学が得意だったから。文系の学部の中で、最も数学が役立ちそうなのは経済学部だと思ったから」
名市大の1年・2年次の授業後はアルバイトに明け暮れた。お金を稼いで何かがしたかったわけではない。だが2年間アルバイトをしたことで、預金通帳にはかなりの大金が貯まった。
「そのお金で車を買うことも考えました。でも、それは社会人になってからでもできること。それより、大学時代にしかできないことに使った方が自分のためになるのでは?」
そこで彼は3年生になる前に1年間休学してカナダに長期留学することを決めた。
「語学を学びたいというよりも、とにかく海外で生活して世界中の人と知り合うことで、自分を成長させたかったんです」
彼が選んだ学校は、日本人はほとんどおらず、アジア、南米、ヨーロッパなど世界各地から学生が集まっていた。英語が大の苦手だった彼は、ハンバーガーショップでも「This!」を多用して注文していたほど。
「でも、せっかく周囲に多様な国の学生がいるのに、コミュニケートしなかったら留学に来た意味がないですから」
彼は何のためらいもなく笑顔で外国人のコミュニティに入り込み、超ブロークンな英語で周囲の人間に積極的に話しかけた。やがて、飛躍的に向上する彼の英語力と比例するように、外国人の友達の数が増えていった。
「昔からお調子者だったという自覚はありますが、この留学を通して『自分から積極的に周囲との壁を取り払い、笑顔で他人に話しかける』という私のコミュニケーションスタイルが身についた気がします」
議論を俯瞰して着地点を探る
1年間の留学後、3年生として名市大に復学した犬飼さんは、金融論の横山和輝先生のゼミを選んだ。
「この時も、特別に金融に興味があったわけではありません。それより、1年生の頃から横山先生の人柄とユニークな授業の進め方に魅力を感じ、横山ゼミを選びました」
ところが1年浪人して名市大に入り、1年留学のために休学したため、ゼミの同期生のほとんどが2歳年下ということになる。そこでゼミの最初の自己紹介で、彼は周囲にこう宣言した。
「みんなより2つ年上だけど、僕に敬語を使わなくて良いからね」
加えて、彼は自分から壁を取り去って周囲に積極的に話しかけて距離を縮めていった。カナダの時と同じように、すぐに彼の周囲には多くの仲間が集まるようになった。
ところで犬飼さんが「ユニークな進め方」と称する横山ゼミでは、当時、卒業の条件として2種類の課題から好きな方を選択できた。
一つは、自分でテーマを決めて書く一般的な卒業論文。もう一つが「日銀グランプリ」への応募。
日銀グランプリとは、2005年から日本銀行が主催している学生のための小論文・プレゼンテーションコンテスト。毎年、金融系学部の大学生から数多くのユニークな提言が集まる。
犬飼さんは、ゼミの学生2人とともに日銀グランプリに応募する方の課題を選択した。
「だって、1人で論文を書くより、みんなで新しいものをつくった方が面白いでしょ?」
小論文のテーマをどうするか、3人で何度も話し合った。どうせ書くなら、学生らしいユニークな視点で、日本の経済界・産業界への提言となるようなテーマとは何か。
「学生らしさといえば、合コンとか・・・ といった発想で、中小企業と金融機関のマッチングをテーマにしようと決まりました」
こうして何度も話し合ううちに、自然に3人の間に役割分担ができていた。
「もちろん全員で自由に意見は出しますが、最終的に話し合いを俯瞰しながら着地点の方向性を決めるのは私。そして2人の仲間が実際に市場データの調査と分析を行い、レポートにまとめる。そんな方法でゼミの他のメンバーからの意見ももらいながら、企画をブラッシュアップしていきました」
そして本番。彼らが発表した「中小企業金融のビジネスマッチング ファイナンスエキスポの提案」は、全国から寄せられた81件の応募の中で、見事に第4回日銀グランプリで最優秀賞を獲得した。講評では、地元の中小企業や信用金庫にインタビューを行った実行力と、寸劇を交えたプレゼンテーションが高く評価された。
「プレゼンテーションの大切さは、横山先生からアドバイスをいただきました。今、仕事で発表資料をつくっている時など、先生の言葉をよく思い出しています」
大学時代と同じスタイル
卒業後は、やはりクリエイティブに関わる仕事がしたくて、広告代理店に就職。流通業界を中心に、販売促進・集客のためのイベントやツールの営業を担当した。この会社で6年間を過ごし、より幅広い種類の仕事に携われる環境を求めて今の会社へと転職した。
ところで、社会人になっても積極的に周囲との壁を取り払って笑顔で話しかけるという彼のスタイルは健在だ。むしろ、営業になってそのスタイルにさらに磨きがかかった。
「でも時々、フランク過ぎて、上司をハラハラさせることもありますけどね」
そしてもう一つ、名市大の経験が今の仕事に生きていることがある。
現在、彼が所属するチームには、クリエイティブ・プロモーション・マーケティングなど10数名の「ものづくり」の専門家がいる。彼はお客さまの広告予算を管理し、ものづくりチームの意見をまとめ、最も効果的な広告の計画案を作成し、お客さまに提案する。そのためには、彼が仕事全体を俯瞰し、着地点の方向性を定めなくてはならない。
「そう考えると、日銀グランプリの頃から、私のスタイルは変わっていませんね。横山ゼミの2期生として、今でも異業種で働く同期や後輩とも交流を続け、さらには現役学生からの就活相談にも乗っています」
そう言うと、彼はトレードマークの人懐っこい笑顔を見せた。
プロフィール
犬飼 佑馬(いぬかい ゆうま)さん
株式会社博報堂プロダクツ名古屋支社
[略歴]
2009年 名古屋市立大学 経済学部 経済学科 卒業
子どもの頃から図工などの「ものづくり」が好きだったという犬飼さん。以前、中学生の時につくった絵本が自宅に保管してあったのを見つけ、そのクオリティの高さに自分のことながら驚いた。今では、その絵本を自分の子どもに読み聞かせている優しき父親である。