在学生の声
学部を持たない研究科
現在、本学大学院では医学・薬学・経済学・人間文化・芸術工学・看護学、そしてシステム自然科学の7つの研究科を擁し、4年制の学部を併設している。しかし、システム自然科学研究科にだけは学部が存在しない。だから同研究科の院生は、本学の他学部あるいは他の大学から進学してきたということになる。では、彼らはなぜシステム自然科学研究科を選んだのだろう。
博士前期課程2年の楠根貴成さんは、関西の大学で天文学を専攻していた。
「私の研究テーマは『ブライトリム分子雲』という天体の観測を通して、星の誕生のメカニズムを解明するというテーマでした。その時、まるでバイブルのように何度も読み込んだ論文をお書きになったのが、システム自然科学研究科の杉谷光司先生でした」。
実は杉谷教授、世界的に知られたブライトリム分子雲研究の第一人者。楠根さんがこの分野に関してさらに深く研究したいと思った時、本学の大学院を選択したのは当然の流れであった。
「天文学には、観測によってデータを収集・分析する観測天文学と、天体現象のモデルを作り出す理論天文学に分かれます。私の研究は観測天文学の分野に入ります」。
具体的には、望遠鏡を使った赤外線偏光観測によってブライトリム分子雲の磁場構造を明らかにし、磁場が星の形成に及ぼす影響について研究する。そのために世界中の大学や研究機関に提案書を提出し、その機関が所有する天体望遠鏡を使用してデータの収集を行う。楠根さんは南アフリカをはじめ海外諸国で何度も観測を行った。
「それでも、私たちの研究は観測が5%、残り95%はデータの解析を行います」。
最近、彼の観測データから気になることが見つかった。詳細を説明するのに十分な紙幅はないが、それは世界で初めての発見であり、星形成メカニズムにおける磁場の役割の解明が飛躍的に進む可能性があるという。
今後も楠根さんは、憧れの杉谷先生とタッグを組んで星の形成の研究に取り組む。
同じく博士前期課程2年の藤田奨さんは、名古屋の大学で「人の癖」をセキュリティ管理に応用するという研究をしていた。
「このテーマをもっと深く研究したくて、愛知県の国公立大学の大学院を探しました。正直、名古屋市立大学にここまで充実した理系の大学院があることはそれまでまったく知りませんでした」。
中でも知能情報学・情報セキュリティ分野の研究に取り組む渡邊裕司准教授の研究が彼の専門に最も近いということで、渡邊先生の研究室を選んだ藤田さん。この研究室では、他に3名の留学生とともに情報セキュリティ関連の研究に取り組む。
「今のコンピュータのセキュリティでは、本人の認証はログイン時のパスワード一回だけです。しかしそれは確実に本人かどうか分かりませんし、何度もパスワードを入れるのも面倒です。それを、人の癖を記憶させることで本人認証できないかというのが私の研究テーマです」。
彼が注目しているのは、スマホを操作する指の動き。一人ひとりの指の動きの癖を使って本人認証を行えないかという研究である。そのために専用のアプリを入れたスマホを協力者に使ってもらい、どんな動きが本人の認証に有効なのかを検証している。
「最近、学会などで発表させてもらうようになりました。学会にはIT関連のさまざまな企業の方に興味を持っていただくことができ、ここから企業との共同研究という形へと発展させられたらいいなあと思います」。
先生と院生の距離が近い研究室
同学年ということもあり、楠根さん・藤田さんは仲が良い。二人とも同じフロアに研究室が与えられており、 気分転換をしたい時など、二人はお互いの研究室をよく訪ねるという。そして、藤田さんが楠根さんの研究室を訪れると、かなりの確率で担当教員の杉谷教授と楠根さんが楽しそうに話をしている姿を見るという。
「先生とは頻繁に食事に行き、研究に関することだけでなく、さまざまなことを話します」と楠根さん。
もともと先生に憧れて本研究科を選んだ楠根さんだが、入学してから改めて先生のすごさを知ったという。
「特に学会や研究会に行くと、天文学の教科書に出ているような海外の研究者が杉谷先生と笑いながら話していたり、そんなすごい研究者の発表に、杉谷先生の研究データや画像が引用されているのを見ると、やっぱりすごい人なんだと実感します」。
また藤田さんも、少人数の研究室で先生と緊密にコミュニケーションを取れる現在の環境をとても気に入っている。
「私がいた大学では、大きな研究室だと先生に意見を求めるだけでも順番待ちになることがありました。でも本学のシステム自然科学研究科は、少人数教育であることに加えて先生方と学生の距離がとても近くて話しやすいため、 迷った時にすぐに相談できます」と藤田さん。
また 、先生が参加する学会などに同行するチャンスが増えるということでもある。
異分野の研究が共存する場所
そして二人とも、同研究科の良さは「異分野の人が近くにいて刺激し合えること」と口を揃える。学部を持たないシステム自然科学研究科だからこそ、そこには多彩な専門分野を持つ研究者が集まっている。
楠根さんは語る。
「学部生の頃は飲み会をしても全員で星の話をしていましたが、今は藤田くんの情報系や、生物学系の先生・院生とさまざまな話ができることが嬉しい」。
特に情報の解析が作業の95%を占める天文学では、プログラミングは不可欠。近くに藤田さんのような専門家がいることはとても心強いという。
「また将来、社会貢献の一環として一般市民や子どもたちに自分たちの研究を伝えていくためにも、いろんな人に会って自分の話を伝える経験をするのは大切だと思っています」。
それは藤田さんも同じだ。
「情報系の研究室は部屋にこもって作業をする人が多いため、まったく違う分野の人と話すのはとても刺激になります」。
特に研究の進め方や学会の発表の仕方などについて話をする時にそれを実感するという。
「情報でこういうことをしたいと考えているという話をすると、楠根くんから『天文学の学会では、こんなアプローチをしている』という話を聞いて参考にさせてもらったこともありました。また私の研究テーマである『人間の癖』の研究については、生物系の研究室と意見交換しながら進めることでより効果的な研究になります。将来は連携して研究する可能性もあります」。
そんな動きを促進するため、現在、楠根さんが幹事となって研究科内の異分野の学生、研究員、教員に呼びかけ、月に一度の懇親会も開催される。
修了後、藤田さんはシステム開発企業に就職する。が、もし可能ならいつか本研究科に戻り、自分が取り組んでいる新しいセキュリティシステム開発というテーマを最後まで見届けたいと思っている。また、楠根さんは平成26年のはじめに日本学術振興会特別研究員に正式に採用され、今後も「世界初」の可能性がある研究を継続したいと考えている。
彼らの他にも、実にさまざまな最先端のテーマに挑戦する研究者が共存し、融合しながらさらにテーマを深化させていく場所。それがシステム自然科学研究科なのだ。
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