在学生の声
人とのつながりの中で学ぶ
「生命に関わる仕事を学ぶのですから、当然、授業は厳しいしテストや実習も多くて大変です。でも、面倒見が良くて教育熱心な先生や、同じ夢を見る仲間との“つながり”があるから、頑張ることができます」
医学部3年生の松元由希さんは、本学で学ぶ日々をこのように形容した。
1年生の時から多くの人とつながりながら、彼女は医療人として成長してきた。
「医薬看連携早期体験学習では、みんなで地域の病院に行き、骨粗しょう症の意識調査を実施。医・薬・看護の3学部の学生が力を合わせて取り組む大切さを学びました」
そして今日、つながることの大切さを彼女に教えてくれるのが、救命救急に関するさまざまな活動を行う公式サークル「MeLSC(メルシー:名市大ライフサポートクラブ)」だ。
これは本学の学生が自発的に立ち上げたサークルで、最初は本学と名古屋大学の合同サークルだったが、2013年に独立して本学独自の同好会としてスタートしたもの。
入学してすぐ、彼女はMeLSCの前身、「救犬MeiLS」に参加した。
「医学部といっても1年生の授業は一般教養科目が中心で、まだ医学に関する勉強はほとんどありません。私は早く医学を勉強したいと思っていたので、救命救急の現場について知ることはとても新鮮で、『これが医学部だ!』と感動しました。活動を続けるうちに、ますます救命救急に対する興味が高まっていきました」
勉強したことを全員で共有する
MeLSCの主な活動は、救命救急の基礎となるBLS(一次救命処置)、ACLS(二次救命処置)を全員で学び、その成果を多くの人が理解できる形で発信すること。医学部生だけでなく、薬学部・看護学部生も参加し、現在、メンバーは約100名の大所帯サークルだ。
普段は月に一回のペースで勉強会を開催し、医・薬・看護それぞれの学生が講師となり、普段の授業で学んだ救命救急に役立つことをテーマに講義を行う。
松元さんが講師を担当したのは「BLSと解剖学」というテーマ。
「ガイドラインを読むと、たとえば心臓マッサージによる心肺蘇生は『胸骨を5cm以上圧迫する』と書いてありますが、なぜ5cmなのかを、解剖学の視点から説明しました」
同じく医学部3年生の平山陽太さんは、心臓は動いているけれど呼吸ができなくて苦しむ患者さんをどのように診るかを医学生の立場から話した。「気道は開通しているか、呼吸は正常かなど、ロールプレイで実践しながら説明しました」
看護学部2年生の若山阿佑美さんは、救命救急の現場で重要な役割を果たすバイタルサイン(体温・脈拍・呼吸数など)に関する講義を行った。「先輩から、看護学部はバイタルサインを1年次に学ぶので、それについて話してほしいと言われました。1カ月くらい前からチームで集まり、どう発表すれば分かりやすいかをみんなで話し合いました」
「内容としては、1年生にはまだ難しいかも知れません。でも、こういった内容を先取りして学ぶことは予習という意味でもためになると思います」と松元さん。
救急看護を学びたいと思っていた看護学部1年の松村歩美さんは、オリターの先輩からこのサークルのことを聞き、参加を決めた。
「医学系のサークルというと、とても専門的な内容について勉強するサークルが多いのですが、MeLSCが扱う内容はとても幅広いので、看護師になっても必ず役に立つことが学べると思います」
しかし、MeLSCの良さは教えられる側だけのものではない。教える側にとっても、自分が学んできたことを改めて整理し、後輩に伝えていくことで、より知識を確実に自分のものにすることができることも大きなメリットに他ならない。
「教える内容も大切ですが、何よりも、ここで学んだ『先輩が後輩に』、『メンバーがメンバーに』教えあうという習慣は、現場でもそのまま活きるはずです。そして、ここで生まれた“つながり”が受け継がれていくことに大きな意味があると思います」と松元さん。
まだMeLSCは設立したばかり。これからさまざまなテーマについて全員で考え、勉強していく。そして、ここで生まれた“つながり”から、チーム医療の基礎が育まれていくのだ。
救命救急の大切さを発信する
一方、こうして自分たちが勉強している内容を外部に発信し、多くの人に救命救急について知ってもらうという活動にも積極的に取り組んでいる。
2014年の夏休みには本学の学生・教職員を対象に、2週間にわたってBLSの講習会を開催。本学臨床シミュレーションセンターで、多くの受講者を前にしてAED(自動体外式除細動器)の使い方を指導した。
他にも名古屋市の瑞穂消防署が近隣の小学校で実施したBLSの講習会では、メンバーがサポートスタッフとして参加。他にも本学教員が所属する山岳会が開催する「BLSセミナー」などに講師として招かれることもある。また現在、愛知県内の消防署と連携し、BLS指導を行うという計画もある。
これまで学内を中心に培ってきたMeLSCの“つながり”は、いよいよ学外へと広がろうとしている。
救急医療が地域医療に活きる
MeLSCの活動を通して救命救急を学ぶことは、彼女自身の将来にとっても大きな意味がある。
「私が生まれ育ったのは山の中の田舎で、近所には病院がありませんでした。だから将来は、交通アクセスが悪い場所で、足腰が悪く病院へ行くのに苦労を強いられるような人たちを支えるために、地域医療を支える医師になろうと思っています」 現在、彼女は基礎自主研修で、地域医療教育学の研究室に所属。地域に住む高齢者の半生について聞き、まとめるといった活動を行っている。
ところで地域医療の現場では、一人の医師がさまざまな患者さんを診察しなくてはならない。だから地域医療の医師は特定の診療科目しか診られないではなく、患者さんを全人的に捉え、多角的に診療を行う「総合診療」を行うことが求められる。
「しかも地域医療で重要な在宅診療では、十分な医療機器がない中で迅速に判断し、手際良い処置を行わなくてはなりません。この状況というのは、実は救急医療とよく似ています」
彼女は今もMeLSCのさまざまな“つながり”を通して、多面的なものの見方や、目の前にいる一人の患者さんと向き合うという姿勢、そして薬学・看護学に及ぶ広い知識を学び続けている。いつか必ず、地域医療の現場で役に立つことを信じて。
プロフィール
松元由希さん
医学部3年
幼い頃から、人間の身体の仕組みに興味があった松元さん。高校時代に「名市大に新生児周産期シミュレーションセンター完成」という新聞記事を見て、絶対にこの大学の医学部に行こうと決めた。そして現在、MeLSCの活動をサポートしてくれる先生方のおかげで、自分たちがこの施設を使えることをとても幸せに思っている。目標は、MeLSCで学んだ『多面的に物事をとらえる』という姿勢を大切に、患者さんの状態や気持ちをくみとり、最善の医療を提供できる医師になること。
平山陽太さん
医学部3年
高校の頃、「名市大に臨床シミュレーションセンターがある」と聞き、本学医学部に進もうと決めた。入学してからの本学の印象は「学生と先生の距離が近い」ということ。将来は松元さんと同様、地域医療を支える医師をめざす。
若山阿佑美さん
看護学部2年
お父さんが救急救命士。見ず知らずの人から「あなたのお父さんに助けられた」とお礼を言われ、父のすごさを知り、救命救急の現場で活躍できる看護師になりたいと思った。MeLSCでは、看護師になってからでは学ぶ機会が少ない実践的な医療についても学ぶことができるため、いつも活動を楽しみにしている。
松村歩美さん
看護学部1年
高校入学直前に東日本大震災があり、募金する以外に何もできない自分がもどかしかった。自分に何ができるかを考え、看護師になろうと決めた。また医薬看連携早期体験学習の存在が、本学を志望する最大の決め手になった。