在学生の声
常にアンテナを高く張り、何事にも「挑戦」
一般的に、理系の学部は学ぶ内容から将来の仕事がイメージしやすいのに対し、文系の学部では学んだ内容が仕事に直結するケースは少ない。逆に言えば、どんな将来像も描けるということでもある。
経済学部4年の山田拓仁(やまだたくと)さんも、大学進学の時には自分の将来がまったくイメージできていなかった。だから名古屋市立大学の経済学部に入ってから、将来の自分の選択肢を見つけようと考えていた。
「本当にやりたいことを見つけるため、最初から、とにかく何でも挑戦すると決めていました」
常にアンテナを高く張り、少しでも興味がありそうなサークルや学内外の活動には片っ端から参加した。そのうちに友人のネットワークも増え、気が付くと1週間が7日では足りないほどスケジュールがいっぱいになっていたという。
「挑戦」の中で感じた、ITの持つ可能性
「ところが2年生になると、コロナ禍でさまざまな活動が大幅に制限されてしまいました」
それでも挑戦を止めたくなかった山田さんは、高校時代の先輩の紹介で、IT教育企業の長期インターンシップに参加してみた。
彼が担当したのは、中高生向けのプログラミング教室の講師。しかし当時の山田さんときたら、課題のレポートを書くPCの使い方を友人に教えてもらっていたというほどPCが苦手。
その会社で4カ月間の研修を受けてプログラミングやWebデザインを必死に勉強し、夏休みになった頃には生徒を指導することができるようになった。
「夏休みはプログラムキャンプというイベントで子どもたちを教え、その後も名古屋の中学校に行って情報の授業をサポートさせてもらいました」
この経験を通して、相手に何かを伝えることの難しさと大切さを学ぶと同時に、ITが持つ可能性の大きさを感じたことも確かだった。
ビジネスプランコンテストへの「挑戦」
3年生になった山田さんは大学進学以前からアートに興味があり、アートに関連する新しいビジネスを始められたらいいなと漠然と考えていた。
そこで、学生を対象とする全国的なビジネスプランコンテスト「キャンパスベンチャーグランプリ」(以下、CVG)を新たなターゲットに定めた。
そしてCVGへの挑戦に積極的な出口将人先生の「経営戦略論」ゼミを選んだ。
実際に活動を進めていくと、自分のアイデアをもとにビジネスを実際に創出したいという思いが強くなっていった。
「今まで温めてきた “ アート ” に関連する新しいビジネスのアイデアを試してみようと思ったんです」
そこで山田さんはゼミ活動と並行して新たなビジネスを立ち上げるため、自分のアイデアをより専門的な見地から見いだせる仲間を探してみた。
2021年の9月某日、同じクラスの友人である森田結人さんにそのことを話すと、「だったら一緒にCVGに応募しよう!」と言われた。
「森田くんは大学生ですが、既に映像系の会社を立ち上げている経営者でもあり、売上予想や事業計画の作成は大得意。そして彼の知人でシステム開発経験があるシステムエンジニア(SE)のヘルトンくん(他大学の留学生)を加えた3人グループで応募することになりました」
こうして森田さんらと共にチームを結成し、コンテストへの出場を目指すことになった。
「ゼミの枠を超えた活動について、ゼミ仲間や出口先生に話すと快く背中を押してくれました。僕の挑戦を受け入れ支えてくれた仲間や先生には本当に感謝しています」
しかし、その時点から応募締切まで残された時間はわずか1カ月しかなかった。
「そこからはもう時間との勝負でした」
鵜飼先生(左)と山田さん
1年生の頃からずっと忙しい山田さんはもちろん、森田さんもヘルトンさんもきわめて多忙。その中でプロジェクトが正しい方向に進んでいるかジャッジできる人が必要になった。
そこで山田さんは、数多くの教員の中からアントレプレナーシップ教育(起業家教育)やベンチャーを専門とする鵜飼宏成先生に自分たちが作った事業計画書を持って直談判した。
すると鵜飼先生はそのアイデアと彼らの想いに共感し、時間を割いて、彼らの挑戦に協力することを快諾した。
鵜飼先生(左)と山田さん
「アート」×「テクノロジー」のアイデアを発案し、全国大会で受賞
この時、山田さんが描いたビジネスプランとは、「アート作品ライブコマース・サービス」。アーティストが創作物を販売するだけではなく、その制作プロセスをライブ配信し、収益化するというもの。さらに、制作段階の作品の販売も行う。
森田さん(右)と山田さん
「ITによってアーティストの活動を支援し、アートを社会全体に普及させたいと思っていました」
タイムリミットが迫りつつある中、メンバー3人は何度もオンラインで話し合い、事業計画をブラッシュアップした。
鵜飼先生からも「ビジネス価値をアピールするだけではなく、“自分たちが社会をどのように変えるのか”というミッションを掘り下げ、分かりやすく図解した方が良い」などとさまざまなアドバイスをいただいた。
こうして1カ月間、彼らが全身全霊でつくりあげたビジネスプランは、2021年度の「第18回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会」において、見事に「JVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)賞」に輝いた。
森田さん(右)と山田さん
大学で得た2つの変化
名古屋市立大学に入り、山田さんは大きな2つのものを得たと感じている。1つは、大学入学時に探していた「本当にやりたいこと」だ。
「さまざまな挑戦の中から、I Tコンサルティングという興味のある領域を発見することができました」
1年生の頃にPCの使い方すら友人に教えてもらっていたにもかかわらず、ITの可能性を信じてさまざまな挑戦を行った。
その結果、山田さんは、外資系ITコンサルティング会社に就職が決まった。今後は、ITコンサルタントとして新たな人生を歩むことになる。
「さらに、アートという人生をかけて関わっていきたいものを見つけることができました。これからもっと自身に磨きをかけ、ビジネスプランをブラッシュアップし、何らかの形でアーティストを支援できればと考えています」
そしてもう1つは「自身の精神面での成長」だ。
大学生活でたくさんの人に出会い、助けられたことで「他人のために何かをしたい」と思うようになった。
「CVGへの挑戦は友人や先生たちの理解と支援があったからこそ成し遂げることができました」
最近では、就職活動をする後輩たちを全力でサポートしている。
「これまで自分が多くの人に支えられてきたことを感謝し、周囲の人の力になりたいと思っています。それを高校時代の友人に話すと、必ず『お前、何があった?』って驚かれますけど(笑)」
たくさんの「挑戦」を通じて、大きな成長を遂げた山田さんの新たなステージが始まる。
プロフィール
山田 拓仁(やまだ たくと)さん
経済学部 会計ファイナンス学科4年
1年生の頃から、興味があることは何でもやってみるがモットーだった山田さん。しかし「4年生になってからそのツケが回り、必修の授業がたくさん残っています」と話す。それでも就職が決まり、目的意識を持って授業を受けるようになると、すべての授業がとても有益だったということを発見した。「だから後輩には、授業は真面目に受けた方が良いとアドバイスしてあげたい」と笑いながら話す。