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在学生の声

自分がしたいことを自分で見つけ、続けていくという選択と覚悟。

研究を通じて人類に役立つ薬をつくる

名古屋市立大学大学院の薬学研究科で創薬の研究を行う齋藤泰輝(さいとうたいき)さん。高校生の頃は、有機化学の問題を解くのが好きだった。

「化学物質をパズルのように組み合わせて薬をつくれたら面白いなと感じていたので薬学部に進学しました」

そんな齋藤さんだけに、名古屋市立大学の薬学部に進んでも研究に興味をそそられた。

「薬剤師の仕事も見せてもらいましたが、自分がしたいこととは少し違っていました」

彼がしたかったのは、自然科学の研究を通じて人類に役立つ薬をつくること。その想いは、3年生になって加藤晃一先生の構造生物学の研究室に入ってますます強くなった。

「加藤先生の研究室を選んだのは、研究室のサイトを見ていちばん面白そうだと思ったから。特に、抗体に興味をそそられました」

もともとアレルギーを持っていた齋藤さんは、進化の過程で洗練されてきた人体が、なぜアレルギーなどという暴走を起こすのかが昔から不思議でならなかった。

この研究室なら、その謎に迫ることができるかもしれない。彼の研究室生活がこうしてスタートした。

図:糖タンパク質のモデル(齋藤さん作成)

この研究室で、齋藤さんは糖タンパク質について研究を行った。

糖タンパク質は、タンパク質に糖鎖(注1)がくっついた分子であり、私たちの体の中でさまざまな機能を担う(図)。

図:糖タンパク質のモデル(齋藤さん作成)

糖タンパク質は1つの分子ではあるが、齋藤さんによると、そのタンパク質の部分と糖鎖の部分は、作り方が大きく異なっているそうだ。

「糖タンパク質のタンパク質部分の構造はDNAを設計図として作られることが分かっているのに対して、糖鎖の構造がどのように決まるのかは分かっていません。自分の研究は糖鎖の構造を決定するルールを見つけることでした」

そして齋藤さんが4年生になった頃、あるタンパク質の構造が糖鎖の構造を決めていることが分かってきた。

次は、そのタンパク質の構造情報を取り出して、その情報を他のタンパク質に組み込んだときにも糖鎖の構造を決めることができるかどうかが興味となる。

「この研究を続けたかったので、何の迷いもなく大学院に進みました」

(注1)グルコースやグルコサミンなどの糖が、鎖のように連結した物質。

研究三昧の毎日

大学院でも、齋藤さんはタンパク質の構造の中に、糖鎖の構造を決める情報が隠されているのではないかと考え、研究を継続してきた。

では、将来、糖鎖の構造を決めるルールが究明されたら、世の中はどう変わっていくのだろう。

「正直、この研究によって世界がどうなるかはよく分かりません。しかしこれで糖鎖の構造を決めるルールが解明されれば、生物のセントラルドグマ(注2)が拡張され、DNAから糖鎖の構造を予測することができるようになります。きっと、多くの生物学者たちに大きな想像力を与えることができるはずです」

実験風景

平日、齋藤さんは、毎朝9時に研究室に入るとすぐに研究にとりかかる。お昼休憩を挟んだら、午後も黙々と研究に没頭する。自宅に戻るのは日付が変わる頃になることもあるそうだ。

「一応、日曜は休日なのですが、やっぱり研究している方が多い気がします」

そんな毎日だが、それはまったく苦ではないという。

「研究がうまく進めば楽しいですし、思った通りに研究が進まなくても、手元にある失敗データを眺めて、ああでもない、こうでもないと考えを巡らせることも楽しいです」

あるタンパク質の構造情報が糖鎖の構造を決めているという発見が本当に正しいのかどうか、正しいとしたらそれをどのように証明するかを考え続ける。

齋藤さんにとってそんな時間が楽しくて、ストレスを感じている暇などない。

(注2)遺伝情報がDNAからタンパク質に伝達されるという生物の基本原則。

就職か、進学か

齋藤さんが論文発表した際に本学からプレスリリースした資料

大学院の修士課程に進学すると、齋藤さんの同期たちがざわつき始めた。修士の就職活動である。

しかし彼は、この時、同期の知人を横目で見ながら少し違和感を覚えていた。

「修士の就活となれば、研究職も見えてきますが、研究職に就けたとしても、取り組みたい研究に取り組めるかは分かりません。一方で、それまで取り組んできた研究にはやりがいを感じていました。確かに周りは就職活動のムードでしたが、自分は就職活動に取り組むための目的が見いだせませんでした。それに、『みんな就職するから』という理由で就職活動をしたくありませんでした」

その言葉どおり、齋藤さんは博士課程への進学を選んだ。

その後も自分の仮説の正しさを信じて研究を継続し、2022年7月、彼の研究室は「タンパク質分子に組み込まれた糖鎖修飾の制御コード」の発見に関する論文を、学術誌「Communications Biology」で発表。

齋藤さんが論文発表した際に本学からプレスリリースした資料

このニュースは同時にマスコミなどでも報道されている。

失敗の積み重ねが研究者を育てる

現在、博士課程も最終の3年目。大学に入学してから8年が過ぎた齋藤さんは、若い研究者を指導する立場でもある。

そんな彼が後輩に伝えているのは、「たくさん失敗しなさい」ということ。

「よく後輩から『うまくいく実験方法が知りたいです。教えてください』と尋ねられることがあります。でも、うまくいくだけが研究じゃないと思います。もし失敗したとしても、それをただの失敗として済ませるのではなく、その結果を生み出した原因を考えて、解決方法を探ることが大切だと思います。そうした経験を積み重ねることで、一見うまくいっていない未知の現象からも、何が起こっているのかを想像する力がだんだんと身に付きます」

そして、失敗から学ぶのは研究室の中だけの話ではない。

齋藤さんは薬学部1年生の時、本学が大学間交流協定を結ぶドイツのルートヴィクスハーフェン経済大学への短期留学プログラムに参加した。

「それは研究とはまったく関係なく、単純に海外の生活を体験してみたいという好奇心からでした」

第37回 日本糖質学会年会で齋藤さんが発表する様子

そこで彼は、高校時代に多少は自信があった英語がまったく通じないことを知った。

「学生の会話に入ることもできなかったことが悔しくて、その後は英語を懸命に勉強しました」

その努力は、台湾の研究機関との共同研究や、国際学会での発表などに生かされている。これも彼が失敗から学んだことの一つかもしれない。

第37回 日本糖質学会年会で齋藤さんが発表する様子

そしてこれから先も、齋藤さんの研究三昧の日々は続く。

プロフィール

齋藤 泰輝(さいとう たいき)さん 
大学院薬学研究科 博士後期課程3年

齋藤さんが名古屋市立大学に来て良かったと思うのは、手を挙げればチャンスがあるということ。「だから、新入生であっても『こんな研究がしたい』と先生にお願いしたら、おそらく何とかしてくれます」しかしそんな優しい大学だからこそ、自分がしたいことは自分で見つけなくてはならない。「大学1年生は高校4年生ではないです」と齋藤さん。それは新入生だけでなく、本学すべての学生へのメッセージでもある。

大学院薬学研究科 博士後期課程3年 齋藤 泰輝(さいとう たいき)さん

加藤先生(右)と齋藤さん

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