在学生の声
名古屋・栄が光であふれた夜
2011年11月25日。日が落ちた名古屋のテレビ塔周辺に、無数の柔らかな光がともされた。今年で2回目となるNAGOYAアカリナイトの始まりである。アカリナイトは「灯そう 心にアカリ つなごう手と手」をテーマに名古屋市が主催するイベント。3万球のLEDが輝く「イルミネーションシャンデリア」や、メールがくるたびにテレビ塔が赤く色づく「ハートタワー」など、無数の光がテレビ塔の周辺を埋め尽くした。その一環として、公園の通路に沿って展示された約60基のデザイン灯を企画・制作したのが、名古屋市立大学芸術工学部の学生グループである。
このグループのリーダーとしてプロジェクトをまとめたのが、同学部3年の鈴木大介さんと椙山佳則さん。実はこの展示、道行く人が好きなデザインに投票するという「アカリのコンテスト」としての側面も持っている。2人は第1回目のコンテストにも参加し、入賞を逃している。今年は雪辱の意味を込めて、そして自分たちでイベントを成功させ、次の代につなげたいという思いを込めて、リーダーとして参加することを決めた。
準備と交渉に明け暮れた毎日
イベントの準備が始まったのは10月の終わり。主催者と何度も打ち合わせを行い、詳細をひとつずつ決めていった。行灯の制作条件は、中のLED球が雨にぬれないこと。風が吹いても倒れないこと。あとは何をしても自由。
大学に戻って知人に話すと、「面白そうだ」と多くの学生が参加を約束してくれた。 「参加者を集めるのにもっと苦労すると思っていました」と椙山さん。しかし、そんなに世の中は甘くない。日がたつにつれて、次々と参加者が辞退していった
「面白そうだと思うことと、本気で参加することはまったく別問題なんですよ」と鈴木さん。市との打ち合わせで、60基の行灯を作ることは決まっている。だから人数が減った分は、他の人が余分に作るしかない。1人参加者が減るたび、別の参加者に無理を言ってもう1基作ってもらうようにお願いする。2人は毎日、そんな交渉ばかりしていたという。
結局、最終的な参加人数が確定した時には、もうオープニングイベントまで3週間を切っていた。
責任感の大切さを知る
そこから実際の制作作業が始まった。芸術工学部の実習室を作業場として、参加者の多くが夜遅くまで残ってアイデアを練り、試作と改良を繰り返した。隣の作品の発想に刺激を受け、もっと面白くて目をひくものを作ろうと切磋琢磨する。こうして、作品のクオリティは着実に上がっていった。
彼らのテーマは「立方体」。骨組みを入れずに外壁だけで支えたり、既製のアクリル板の代わりの素材を自作したり、目に見えない部分にこだわった。彼らの他に、しいたけ栽培セットを大胆に使った作品や、1人で何基ものデザイン灯を作り、壮大な宮殿を再現した大作など、それぞれが工夫を凝らしたオリジナルのデザイン灯が完成。まさにイベント直前のことだった。
「今回のプロジェクトでは、責任感の大切さを痛感しました」と椙山さん。大学の課題で自分の作品づくりを行う機会はあるが、課題の締め切りに遅れたり、いい加減に取り組んだりすると、困るのは自分。しかし市のイベントでそれをすると、関わるすべての人に迷惑をかけてしまう。参加者として、リーダーとして、最後まで責任をもって行動する大切さを彼らは学んだという。 「それがプロとして仕事をするということだと思います」と鈴木さん。
そして12月15日~12月25日の夜、無数の光が名古屋のテレビ塔の周囲を埋め尽くした。その瞬間、2人の思いが、そして参加したすべての学生の思いが、名古屋の風景になった。
※残念ながら、2011年も彼らは入賞を逃した。2人が3度目の挑戦をするかどうか、冬まで考える時間はたっぷりある。
アカリナイトインタビュー協力者
芸術工学部
デザイン情報学科 大石美緒さん/木原英里さん/黒宮愛さん/高見安紗美さん/西尾由理佳さん/丹羽彩乃さん/平野佑典さん/細谷奈央さん
建築都市デザイン学科 石塚悠馬さん *アイウエオ順