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共同研究プロジェクト講演会「アバンギャルド作家の作品を紐解く喜怒哀楽を語る」開催報告


2024年10月31日、人間文化研究所共同研究プロジェクト講演会「アバンギャルド作家の作品を紐解く喜怒哀楽を語る」が滝子キャンパス1号館203教室で開催されました。
講師に米国・バックネル大学人文科学カレッジ東アジア研究科のエリザベス・アームストロング教授を迎え、事前に申し込んだ市民や学生・教員ら約60人が参加しました。
バックネル大学は、ペンシルベニア州ルイスバーグ市にある1846年創立の歴史ある大学で、本学とは2004年から現在まで約20年にわたり相互にさまざまな学術交流を続けています。
講演では、日本語教育学と翻訳学が専門で寺山修司文学の翻訳者でもあるアームストロング教授が、寺山作品との出会い、言葉遊びや引用が多く翻訳が難しいと言われる寺山作品の翻訳にどのように挑んできたかを、さまざまな「喜怒哀楽」のエピソードとユーモアを交えて講じられました。

講演会チラシ

講演会チラシ

講演に先立ち挨拶する人間文化研究所長  山田美香教授

講演に先立ち挨拶する人間文化研究所長 山田美香教授

初めて翻訳した寺山作品「赤い糸で縫い綴じられた物語」を紹介するアームストロング教授

初めて翻訳した寺山作品「赤い糸で縫い綴じられた物語」
(英訳タイトル:The Crimson Thread of Abandon)。
京都滞在中に訪れた図書館で偶然手にしたこの短編集は、当時探し求めていた上級者向け日本語教材に最適だった。

翻訳難問の一例

「最も翻訳しにくい分野は、文化的に全く異なる表現、思想、ジョーク、言葉遊びといったユーモラスなジャンル」と話すアームストロング教授。講演では、これまで乗り越えてきた「怒りを覚えるような、哀しくなるような翻訳の苦労」の数々が紹介されました。
『寺山修司少女詩集』に収録された「サ行二段活用恋愛形」もその一つ。
詩の意味と発音、文字の種類によって視覚にも訴えるマルチレイヤーな要素を英語に置き換えるにはどんな術(すべ)があるのか、「意地でも翻訳してみせる!」と難問に挑戦した当時の意気込みと試行錯誤の過程を振り返りました。
原文(一部抜粋)
詩と詩と詩と…屋根裏に雨が
オ詩エテ?……とみずえが言った
詩ラナイヨ……と僕が言った
詩月一日………エイプリルフール
う詩詩詩………怪奇マンガかな?
「詩」→「し」→「shi」→「she」(少女のイメージから)に変換し、絵文字、イラストなどを駆使してこの詩の世界観を再現

「詩」→「し」→「shi」→(少女のイメージから)「she」に変換しイラストも用いて翻訳

質疑応答でも難問続出

講演後の質疑応答では、翻訳の手法や言葉に対する思い入れ、寺山の青森なまりやオノマトペの翻訳、作品に登場する動物の意味など、幅広い質問が学生や教員から寄せられました。それら難問に対しても、アームストロング教授は例を出しながらひとつひとつ丁寧に答えを導き出しておられました。
<質問に対するアームストロング教授の回答より>
「翻訳や日常会話での言葉選びで心掛けていること」を問われて
まず翻訳者は自分の母語を知るべき。言葉の引き出しを増やさなければ失格。引き出しの中の選択肢を増やして翻訳の可能性を増す。そのために、よく本を読み、書き留めている。
また、人の会話をよく聞き、耳から情報を仕入れて自分で使ってみることも大事。とにかく言葉に接する機会を作ることを心掛けている。
◆「詩の場合、言葉の響きも重要。意味と音、どちらを優先するか」と問われて
文学、とりわけ詩の場合、音・響きは非常に重要。可能であれば英語でも滑らかな調子に訳すが、それが難しい場合は妥協点として原文から離れ、英語ならではの美しさを感じさせる訳にする場合もある。ただ、原文から離れるほど、翻訳なのか新たな創作アダプテーションか評価が分かれる。まず言葉(意味)が大事で、それをどう着飾るか、翻訳の目的・状況などからバランスを考えその都度判断する。
「同じ一人称でも『おれ』『オレ』ではニュアンスが違う。ひらがな・カタカナ・漢字と、視覚的に異なる文字のニュアンスをどのように翻訳表現するか」と問われて
敢えてカタカナを使っていたら、強調しているのか外来語だからなのか、その理由を見極めてから英語のかたちを決める。「Me/I」の活字だけでなく、太字にしたり、時には視覚に訴えるために記号「♂」を使ってみるなど、目的と対象、状況によって翻訳の手法を考える。

敢えてカタカナを使っていたら、強調なのか外来語だからなのかその理由を見極めてから英語のかたちを決める。「Me/I」の活字だけでなく、太字にしたり、時には視覚に訴えるために記号「♂」を使ってみるなど、目的と対象によって翻訳の手法を考える

翻訳をめぐる「喜怒哀楽」は「人生」に通じる

最後にアームストロング教授は、
「無理だと思うような文章であっても考えれば出てくる。どこかにその翻訳は私を待っている。見つけるか見つけないかの問題。完璧には出来ないかもしれないが自分が納得する、それが肝心」
「翻訳の喜怒哀楽は人生の喜怒哀楽に通じる。どちらもこの4種類の感情を避けては通れない。寺山から刺激を受けながらこれからも続けていきたいと思っている」と講演を締めくくりました。