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AIが病的な歩行を判別〜スマートフォンアプリで撮影した6秒の歩行データで判別可能〜


人工知能(AI)※1で全身の3次元相対座標※2を瞬時に自動推定できるiPhoneアプリTDPT-GTを使って歩行データを収集し、その歩行中の6秒間のデータを抽出して深層学習を行い、病的な歩き方を感度65.2%、特異度78.1%で判別することに成功しました。

研究成果の概要

AI-歩行動作解析用iPhoneアプリTDPT-GTを使って、被検者に直径1mの円を2周歩いてもらった。その歩行中の約6秒間の全身の3次元相対座標※2を抽出して、Light GBMという深層学習により、病的な歩き方を感度65.2%、特異度78.1%で判別しました。
本研究は、名古屋市立大学、山形大学、東北大学、株式会社デジタル・スタンダード、信愛会脊椎脊髄センター、洛和会音羽病院正常圧水頭症センター、他の共同研究による成果です。

背景

歩行は下肢のみならず、姿勢、バランス、筋力、各身体部位の動作をなめらかに組み合わせて行う複雑な動作です。これらの様々な要因が障害されると、歩行が障害され、日常生活に大きな影響を及ぼします。しかし、このような複雑な動きを見て、それが病的なのかどうかを見て取るのは、とくに歩行障害が軽症である場合では、ベテランの脳神経の専門医であっても困難です。病的な歩き方を早く発見できれば、リハビリテーションや介護予防、疾患の早期の診断に役立ちます。
従来の歩行解析研究では、全身にマーカーを付けて複数台のカメラを連動させ、マーカーの動きを3次元的に追跡するモーションキャプチャーシステムが使われてきました。しかし、モーションキャプチャーシステムは、広い設置場所が必要であり、機器が高額で、計測・解析に時間がかかることが課題でした。
我々は、AIによる姿勢推定の画像解析技術を活用することで、体に何もつけないまま、スマートフォンで撮影するだけで、ヒトの頭から足先まで全身24点の動きを3次元座標に自動計測するアプリ【Three D Pose Tracker for Gait Test (TDPT-GT)】を開発しました(Sensors 2022)。
我々は、このTDPT-GTアプリを使って、病的な歩き方を判別する共同研究を行っています。

本研究グループについて

本共同研究は、2017年に山田茂樹(名古屋市立大学・脳神経外科学講座、当時:洛和会音羽病院正常圧水頭症センター)と青柳幸彦(株式会社デジタル・スタンダード)でスタートし、現在は脳神経系を中心とする多施設多分野の歩行解析の専門家が参画しています。
今回の研究は、山形大学医学部第三内科・脳神経内科の伊関 千書講師(現:東北大学)、近藤 敏行助教、太田 康之教授が中心となってデータ収集と解析を行い、山形大学大学院・理工学研究科の深見 忠典教授、山形大学医学部麻酔科の早坂 達哉医師、山形大学医学部学生の柳川 漂太らが深層学習による解析を行った成果です。

研究の成果

研究の図

対象者は、何らかの病的な歩き方をしている多様な神経筋疾患の患者さん114名と、これらの疾患がなく、病的ではない歩き方のボランティア160名で、直径1mの円を2周歩いてもらい、株式会社デジタル・スタンダード(青柳幸彦氏)が開発したiPhone用アプリ【Three D Pose Tracker (TDPT)】(無料ダウンロード)の歩行解析研究用非公開アプリTDPT for Gait Test (TDPT-GT)を用いて、頭から足先までの全身24点の3次元相対座標をAIで自動推定しました。
その歩行中の約6秒間の3次元相対座標の情報を抽出して、Light Gradient Boosting Machine (GBM) という深層学習により、病的な歩き方を感度65.2%、特異度78.1%で判別することに成功しました。

研究のポイント

  • iPhone用アプリTDPT-GTで自動推定した頭から足先までの3次元相対座標を用いて、6秒間の歩行データをLight GBMの深層学習に入れて、病的な歩き方を判別しました。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

今後、すり足歩行、小刻み歩行、開脚歩行、すくみ足、痙性歩行、突進歩行などの各病的な歩き方を判別する深層学習を行い、それぞれの病的な歩き方と関連する特発性正常圧水頭症(iNPH)※3、パーキンソン病、頚椎症、脳卒中などの疾患を早期に発見する技術へと発展させていきたいと考えています。
加齢の影響はあるが健康な歩き方と病的な歩き方を区別することは、脳神経系の専門医や歩行研究の専門家でも難しいことがあります。そこで、従来は大学病院や研究機関でしか行えなかった歩行動作解析を、本研究に使用したiPhoneアプリTDPT-GTを使うことで、外来の診察室でも簡単に歩行動作解析が可能になりました。今回の研究成果では、深層学習を用いることで、わずか6秒間の歩行データからでも健康な歩き方と病的な歩き方を判別できることを証明しました。
今後は、多くの人が持っているスマートフォンで、病院、医院、介護施設だけでなく、家庭でも気軽に病的な歩き方をAIで判別できるようになり、超高齢化社会の我が国において介護が必要となる原因の一つである「転倒・骨折」のリスクを早期に検知し、予防的な介入を行うことが可能と考えています。

用語解説

※1 人工知能(AI):Artificial Intelligenceの略。AIを使った画像認証の技術は、カメラの顔認証
や、車の自動運転の技術などと同じニューラル・ネットワークを利用した深層学習の一つ。
※2 3次元相対座標:3次元空間に被検者のヘソを中心として頭までの長さを1、かかとまでの長さを1とした相対的な座標。
※3 特発性正常圧水頭症(iNPH):idiopathic Normal Pressure Hydrocephalusの略。頭痛などの頭蓋内圧亢進症状のない大人の慢性水頭症のことを『正常圧水頭症』と呼ばれる。このうち、くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎などに続いて発症する水頭症を続発性正常圧水頭症、これらの先行する疾患がなく、高齢になって歩けなくなって転倒する、物忘れが進行する、頻尿とトイレが間に合わない切迫性尿失禁などの症状で見つかることの多い水頭症を特発性正常圧水頭症と分類される。

研究助成

  • 一般財団法人G-7奨学財団 [研究課題名:高齢者の病的歩容と転倒リスクの自動判定システムの開発]
  • 大阪ガスグループ福祉財団 [研究課題名:集団行動制限環境下においても高齢者の健康・日常生活動作をリモートで見守るAIシステムの導入]
  • 公益財団法人大樹生命厚生財団 [研究課題名:特発性正常圧水頭症患者のアルツハイマー型認知症併存を判別する認知機能評価の確立]
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) [研究課題名:脳脊髄液の新規流体解析を用いた正常圧水頭症の病態解明]

論文タイトル

Artificial Intelligence Distinguishes Pathological Gait: The Analysis of Markerless Motion Capture Gait Data Acquired by an iOS Application (TDPT-GT)

著者

伊関 千書1, 2)、早坂 達哉3)、柳川 漂太4)、小森谷 裕太3)、近藤 敏行1)、星 正行5)、深見 忠典6)、小林 吉之7)、上田 茂雄8)、川前 金幸9)、石川 正恒10, 11)、山田 茂樹11, 12, 13)、青柳 幸彦14)、太田 康之1)

所属
1;山形大学医学部第三内科・脳神経内科
2;東北大学大学院 高次機能障害学
3;山形大学医学部麻酔科
4;山形大学医学部
5;福島県立医科大学保健医療学部 理学療法科
6;山形大学大学院 理工学研究科 情報・エレクトロニクス専攻
7;産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 運動機能拡張研究チーム
8;信愛会脊椎脊髄センター
9;太田西ノ内病院 麻酔・集中治療科
10;洛和ヴィライリオス
11;洛和会音羽病院 正常圧水頭症センター
12;名古屋市立大学 脳神経外科学
13;東京大学 生産技術研究所
14;株式会社デジタル・スタンダード

掲載学術誌

学術誌名:Sensors
DOI番号:10.3390/s23136217