グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



報道発表の新着情報

ホーム >  報道発表の新着情報 >  製薬業界のスピンオフ企業は研究開発ネットワークにおける中心性の高さと国際的コラボレーションにより資金調達額が増大することを示唆

製薬業界のスピンオフ企業は研究開発ネットワークにおける中心性の高さと国際的コラボレーションにより資金調達額が増大することを示唆


研究成果の概要

革新的な新薬を継続的に創出するためには様々な企業、学術機関とのコラボレーションが重要です。欧米において創薬関連スピンオフ企業※1は持続的に創出されており、コラボレーションネットワークにおける重要な役割になりうると考えられます。しかしながら、スピンオフ企業が研究開発を持続、拡大するために必要な資金調達に影響を与える要因については明確ではありませんでした。
名古屋市立大学データサイエンス学部の児玉耕太教授らによる本研究では、多くのスピンオフ企業を創出している米国と英国に着目し、近年創出されたスピンオフ企業の資金調達額に影響する要素を分析しました。その結果、研究開発ネットワークにおいて組織間をつなぐ役割を果たし、国際的な研究開発コラボレーションが活発なほど資金調達額が高くなることが明らかになりました。

背景

医薬品は多様な知識や技術を活用し、複雑なプロセスを通じて創出されます。これまでは大手製薬企業が医薬品創出における中心的な役割を果たしてきましたが、近年では新たに創出される中小の様々な企業等がコラボレーションを通じて医薬品創出に貢献しています。一方、医薬品の研究開発の生産性は低下傾向にあり、研究開発費の増加は必ずしも新薬創出数にはつながっていません。新薬の研究開発の成功確率は低いことから、効率的な研究開発のコラボレーションは継続的な新薬創出をする上で重要な課題です。
本研究では製薬業界における研究開発コラボレーションのプレーヤーとしてスピンオフ企業に着目し、スピンオフ企業の研究開発の持続、拡大において重要となる資金調達額に影響を与える要素を明らかにするために、研究開発ネットワークとコラボレーション戦略の観点から分析しました。

研究の成果

本研究では、2012年から2021年において欧米において創出されたスピンオフ企業を調査しました。その結果、米国と英国においてスピンオフ企業の創出が他国より活発であることがわかりました(図1)。また、米国では企業、および学術機関からのスピンオフ企業創出数に大きな差はなく、英国においては学術機関からのスピンオフ企業創出が活発であることから、スピンオフ企業の創出の特徴において地域間に違いがあることが明らかとなりました。

欧米におけるスピンオフ創出数の蓄積推移のグラフ

そこで、スピンオフ企業創出が活発な米国と英国に着目し、企業および学術機関からのスピンオフ企業の研究開発コラボレーションの特徴を分析した結果、米国と比較して英国における学術機関からのスピンオフ企業は国際的なコラボレーションをしている傾向が明らかとなり、早期ステージの研究開発が活発であることがわかりました。
組織間での研究開発コラボレーション戦略の要素に加え、様々な組織が関わる研究開発コラボレーションのネットワークにおける中心性からスピンオフ企業の知識や技術の吸収、活用能力を評価し、資金調達額との相関を分析しました。その結果、米国、英国におけるスピンオフ企業は国際的な研究開発コラボレーションが活発であり、研究開発コラボレーションネットワークにおいて、他の組織同士をつなぐような媒介的な役割としての重要性が高い位置であるほど資金調達額に対して正の影響を与えることが認められました。

研究のポイント

  • 英国、米国における製薬業界関連の企業、学術機関からのスピンオフ企業は持続的に創出されており、英国においては学術機関からのスピンオフ創出のほうが活発である
  • これらの国における近年設立されたスピンオフ企業の資金調達額はネットワークにおける中心性の高さと、国際的な研究開発コラボレーションの数と正の相関を示すことが示された
  • スピンオフ企業のネットワーク構築能力、ネットワークを通じた知識、技術の吸収能力がスピンオフ企業における重要な戦略であることが示唆された

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

スピンオフ企業は未成熟な企業成長ステージにおいては企業、あるいは学術機関から引き継いだ技術などの有用な研究開発資産を保有していたとしても、資金調達による研究開発の持続、拡大が重要であると考えられます。
本研究から得られた知見は、スピンオフ企業の観点においては研究開発ネットワークを通じた知識や技術の吸収能力の高さが資金調達に重要であることを示唆しています。また、製薬企業の観点においては、スピンオフ企業の技術、科学レベルの評価のみではなく研究開発のネットワークの構築能力を評価することが、効率的な研究開発コラボレーションが可能なパートナーの選定に重要であると考えられます。このように、研究開発ネットワークを構築し、その中心的な位置を確立する能力が製薬企業と同様にスピンオフ企業においても重要であることから、コラボレーションを通じた医薬品創出の効率性を高めるためにはネットワークの観点から研究開発の戦略を構築することが必要と考えられます。このようにスピンオフ企業と製薬企業が相補的に戦略を整合し、スピンオフ企業の研究開発への出資やコラボレーションを通じてエコシステムを構築することの必要性を示唆しています。

【用語解説】
※1 スピンオフ企業:企業、学術機関等から独立した組織として設立された企業。

【研究助成】
文部科学省科学研究費補助金(助成番号:21H00739, 20H01546, 20K20769)

【論文タイトル】
The rise of spin-offs: Fueling pharmaceutical innovation through collaboration

【著者】
八代健太郎1 林永周2 仙石慎太郎3 青山敦4 児玉耕太5*
所属
1 立命館大学 大学院 テクノロジー・マネジメント研究科
2 立命館大学 経営学部
3 東京工業大学 環境・社会理工学院
4 立命館大学 大学院 テクノロジー・マネジメント研究科
5 名古屋市立大学 データサイエンス学部
(* Corresponding author)

【掲載学術誌】
学術誌名 Journal of Open Innovation: Technology, Market, and Complexity
DOI番号:doi.org/10.1016/j.joitmc.2023.100200