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脳梗塞後のリハビリテーション患者に対する新しい画像評価法の確立(―脳梗塞後の虚血巣における鉄と髄鞘の縦断的変化と神経学的予後との関連―)


日本人の死亡原因として、脳卒中(脳梗塞を含む)はがん、心疾患に次いで第3位に位置します。また、脳卒中は寝たきりになる原因としては最も多い疾患であり、その60%以上を占めるのが脳梗塞です。脳梗塞を発症すると、脳の一部への血流が遮断され、その結果、脳細胞が損傷し、さまざまな身体機能が失われることがあります。これに対処するためには、早期診断と治療が不可欠ですが、同時にリハビリテーションが極めて重要な役割を果たします。リハビリテーションを通じて、脳梗塞後の患者は失われた機能を回復し、生活の質を向上させ、社会復帰を目指すことができます。また、再発予防のためにも、継続的なリハビリテーションと生活指導が必要であり、これらの取り組みを強化することで、脳梗塞患者の生活の質を向上させることが求められています。
 
脳梗塞を発症した患者に対して、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Image:MRI)を用いた画像評価法は非常に重要です。MRIは、脳梗塞による損傷の部位(脳虚血巣)を早期に発見するために不可欠なツールです。また、脳虚血巣の範囲や構造、機能を視覚化して定量的に計測することで、脳梗塞後のリハビリテーションの効果を客観的に評価し、治療計画を最適化するためのツールとしても近年注目を集めています。
 
名古屋市立大学大学院医学研究科の打田佑人研究員(神経内科学)、植木美乃教授(リハビリテーション医学)、松川則之教授(神経内科学)らの研究チームは、米国ジョンズホプキンス大学の大石健一教授(放射線科学)と共同して、脳梗塞後の患者に縦断的にMRIを撮像することでリハビリテーションによる脳虚血巣の可塑性と回復過程をリアルタイムでモニタリングすることができる最新の画像評価法を確立して、臨床画像研究を実施しました。本研究により新たに発見された知見として、i) 脳梗塞後のリハビリテーション患者において脳虚血巣の回復過程を生体脳で可視化できること、ii) 脳虚血巣における鉄沈着量と髄鞘の縦断的変化が神経学的予後と関連していること、iii) 脳梗塞の臨床病型により脳虚血巣の回復過程が異なることを世界で初めて明らかにし、米国科学誌「Stroke」に報告しました。

背景

脳梗塞を発症した患者にとって、脳梗塞後のリハビリテーションは極めて重要です。適切なリハビリテーション介入によって、患者の脳虚血巣では脳組織の再生化が促進され、失われた機能が改善し、生活の質の向上と社会復帰を目指すことが可能となります。脳虚血巣の範囲や構造、機能を視覚化して定量的に計測できる最新のMRI技術が開発され、脳梗塞後のリハビリテーションの効果を客観的に評価し、治療計画を最適化するためのツールとして、近年注目を集めています。本研究では、脳梗塞を発症してリハビリテーション介入を行った患者を対象として、最新のMRIを用いて脳虚血巣の鉄沈着量と髄鞘化の程度を縦断的に定量化し、神経学的予後との相関を調べました。

方法

2020年8月から2022年3月の間に脳梗塞を発症して入院となった患者112名の属性や身体学的検査、神経学的検査を記録しました。続いて、リハビリテーション介入中の縦断的なMRI検査に同意された患者32名を対象に、リハビリテーション前後の脳MRIおよび神経学的検査を施行しました。脳MRIでは、定量的磁化率マッピング(Quantitative Susceptibility Mapping、QSM)とR2* relaxometryを組み合わせて縦断的に解析することで、虚血巣の磁化率値(ΔQSM)とR2*値(ΔR2*)の縦断的変化を計測し、双方のパラメーターのベクトルが同じ向きの時は鉄の変化を、逆向きの時は髄鞘の変化を捉えていると画像学的に解釈することができます。本手法の撮像時間は約10分間であり、現在多くの施設にて運用されている通常のMRI機器(3-Tesla)で撮像が可能です。

図解

患者適格基準:

・発症時90歳未満

・Modified Rankin Scale <5

・脳梗塞以外の併存症無し

リハビリテーション介入:

・作業療法

・理学療法

・言語療法

・心理社会的支援

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図1 臨床画像研究のデザインと脳MRI

結果

脳虚血巣の鉄と髄鞘の変化の特徴が脳梗塞の臨床病型と共通点を有していることがわかりました(図2)。例えば、心原性脳塞栓症(Cardiogenic Embolism、CE)の脳虚血巣では主に鉄が吸収されていく傾向を画像学的に捉えていた一方で、ラクナ梗塞(Lacunar)やアテローム血栓性脳梗塞(Atherosclerosis)の虚血巣では主に髄鞘の形成が捉えられていました。また、神経学的所見が悪化しやすいBranch atheromatous disease(BAD)では、主に鉄の蓄積と脱髄を画像学的に捉えていることがわかりました(図3)。

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図2 脳梗塞の臨床病型毎の脳虚血巣の磁化率値(ΔQSM)とR2*値(ΔR2*)の縦断的変化

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図3 脳梗塞の臨床病型と磁化率値(ΔQSM)やR2*値(ΔR2*)の縦断的変化との関係

National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS) 評価による神経学的予後を目的変数、ΔQSMとΔR2*を説明変数、年齢や性別、臨床病型、発症からMRI撮像までの時間、虚血巣範囲を共変量として調整した重回帰分析では、ΔQSMは有意な相関係数を認め (0.311 [95% CI, 0.098–0.520]; P=0.017)、ΔR2*は有意な相関係数を認めませんでした (coefficient, 0.114 [95% CI, −0.127 to 0.345]; P=0.291; 図4)。

図解

図4 NIHSSとΔQSM、ΔR2*との相関解析

結論

脳梗塞後のリハビリテーション患者において、脳虚血巣における磁化率の経時的変化が神経学的予後と関連していることがわかりました。

研究の意義と今後の展開

本臨床画像研究で用いた最新のMRI解析技術を脳梗塞後のリハビリテーション患者に臨床応用することにより、QSMとR2* relaxometryを組み合わせた縦断的な計測値から、脳虚血巣の鉄沈着量と髄鞘化の程度を同時に定量化することが可能になりました。この技術により、リハビリテーション効果を客観的に評価することで、回復過程の脳組織変化のより詳細な理解が深まり、治療計画を最適化するためのツールとして活用できる可能性があります。

研究助成

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI 22K07520)による助成を受けて行われました。

論文タイトル

Longitudinal Changes in Iron and Myelination Within Ischemic Lesions Associate With Neurological Outcomes: A Pilot Study

著者

打田佑人*1, 2、菅博人3、加納裕也4、恩田健吾2、櫻井圭太5、高田幸児4、植木美乃*6、
松川則之1、Argye E. Hillis7、大石健一2
(*責任著者)

(以下、論文投稿時の所属機関)
1. 名古屋市立大学大学院医学研究科神経内科学
2. ジョンズホプキンス大学放射線科学
3. 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学
4. 豊川市民病院脳神経内科
5. 国立長寿医療研究センター放射線診療部
6. 名古屋市立大学大学院医学研究科リハビリテーション医学分野
7. ジョンズホプキンス大学神経内科学

掲載学術誌

学術誌名:Stroke
DOI番号:10.1161/STROKEAHA.123.044606