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妊娠中期の尿中ニトロフェノール類濃度と早産、在胎不当過小、低出生体重および子どもの4歳時精神神経発達との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)


エコチル調査(注1)愛知ユニットセンター(名古屋市立大学)の上島通浩教授、金子佳世元特任講師らの研究チームは、エコチル調査の対象者のうち、3,650組の母児における、妊娠中期の母体尿中ニトロフェノール類濃度と早産、在胎不当過小(注2)、低出生体重および子どもの4歳時点の精神神経発達との関連を調べました。その結果、妊娠中期の尿中ニトロフェノール類濃度が調査対象集団の中で高い妊婦では、男児における早産および女児における在胎不当過小の割合が高いことが明らかとなりました。ただし、尿中から検出されたニトロフェノールがどこから発生し、どのような環境化学物質に由来するのかは不明であり、今後、さらなる研究が必要です。
本研究の成果は、2024年11月5日付でElsevier社から刊行されている環境科学分野の学術誌『Environmental Research』に掲載されました。

※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

発表のポイント

・ニトロフェノールは、自動車排気ガス等に含まれて大気中に放出され、大気中微粒子の成分として存在するほか、土壌、水中にも存在する環境汚染物質のひとつです。また、染料、防腐剤、農薬など、様々な用途の化学物質の原料として使用されています。
・本研究では、妊娠中期の尿中ニトロフェノール類濃度と早産、在胎不当過小、低出生体重および子どもの4歳時点の精神神経発達との関連を調べました。
・妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールの両方の濃度が高い集団は、男児の早産の割合が高い傾向を示しました。
・妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールの両方の濃度が高い集団は、女児の在胎不当過小の割合が高い傾向を示しました。
・ただし、妊娠中の母親がどのような物質にばく露(注3)したことで、尿中からニトロフェノールが検出されたのかは不明であり、今後、それを調べる研究が必要です。

研究の背景

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(注4)です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしている世界的にも注目されている調査です。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを置いています。また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
ニトロフェノールは工業的に農薬、医薬品、染料等の原料として使用される他、大気中の粒子状物質、排気ガス、バイオマスの燃焼ガス、雨水等に含まれ、使用工場や内燃機関等が発生源と考えられる環境汚染物質のひとつです。また、特定の有機リン系農薬が体内に取りこまれた時に分解されて尿中排泄される物質でもありますが、4-ニトロフェノールのもとになるパラチオンやメチルパラチオンは国内では使用されていません。ニトロフェノールはヒトの尿中で高い割合で検出され、米国では環境中で監視、削減が必要な物質リストに挙がっています(https://www.epa.gov/eg/toxic-and-priority-pollutants-under-clean-water-act#priority)。しかし、尿中から検出されるニトロフェノール類の濃度が、ヒトの健康と関連しているかを検討した研究は少なく、はっきりしたことはわかっていません。当研究チームでは、動物実験において性ホルモンの分泌異常を引き起こすことや、母体から胎盤を通過して胎児に移行することが指摘されている、4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールに着目しました。

研究内容と成果

本研究では、エコチル調査の対象者のうち、解析に必要なデータがあり、妊娠中の高血圧性疾患や先天性異常がなく、多胎妊娠ではない、3,650組の母児を対象としました。解析では、母親の教育歴、妊娠中のエネルギー摂取量、妊娠中の尿中コチニン濃度、調査対象地域による影響を考慮し、妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールと3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度と、早産、在胎不当過小、低出生体重および子どもの4歳時点の精神神経発達との関連について調べました。

① 妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノール濃度と早産との関連
妊娠中期の尿中の4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールのどちらかの濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、それぞれの物質の濃度が最小濃度以下だったグループに比べて男児の早産の割合が高いことが分かりました。また、2つの物質の両方とも濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、どちらの物質の濃度も最小濃度以下だったグループに比べて男児の早産の割合が高いことが分かりました。そして、2つの物質の濃度を測定できないレベルまで低減することで、早産と判定された男児のうち16.3%を防げる可能性があることが示されました。

② 妊娠中期の尿中4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノール濃度と在胎不当過小との関連
妊娠中期の尿中の3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、最小濃度以下だったグループに比べて女児の在胎不当過小の割合が高いことが分かりました。また、4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールの両方の濃度が測定可能な最小濃度より高かったグループでは、どちらの物質の濃度も最小濃度以下だったグループに比べて女児の在胎不当過小の割合が高いことが分かりました。そして、妊娠中期の尿中4-ニトロフェノール濃度および3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度を測定できないレベルまで低減することで、在胎不当過小と判定された女児のうち10.6%を防げる可能性があることが示されました。

なお、妊娠中の尿中4-ニトロフェノールおよび3-メチル-4-ニトロフェノールの濃度と低出生体重や4歳時点の精神神経発達との関連は見られませんでした。

今後の展開

本研究により、妊娠中期の尿中ニトロフェノール濃度と男児の早産および女児の在胎不当過小との関連が、明らかになりました。また、妊娠中期の尿中ニトロフェノール濃度を低減できた場合に想定される、予防可能な早産と在胎不当過小の割合が示されました。尿中ニトロフェノールは特定の有機リン系農薬の体内分解により尿中に排泄される物質であるというのが従来の定説でしたが、検出率が高い4-ニトロフェノールの元となるパラチオンやメチルパラチオンは、日本では使われていません。近年では、農薬だけではなく、自動車やバイオマスの燃焼による大気汚染物質がニトロフェノールの発生源として指摘されていることもあり、この研究では、尿中で検出されたニトロフェノールがどの物質に由来するのかはわかりませんでした。今後は、この点を調べる研究が必要です。また、これまでに、妊娠中の尿中ニトロフェノール濃度の上昇と早産や在胎不当過小との関連を調べた大規模な疫学調査はなく、他の集団でも同様の結果が得られるか、さらなる検証が必要です。

用語解説

注1 エコチル調査:環境省が企画立案し2010年度から開始された、全国で10万組の親子を妊娠中から長期間追跡する調査
注2 在胎不当過小:胎児が子宮の中にいた期間(母親の最終月経開始日と分娩日の間の週数をもとに算出)に対応する標準出生体重と比較して小さく(人数を体重が一番軽い子どもから数えた時に10%未満に入る状態)生まれること。さまざまな原因により子宮内での発育が抑制された可能性を示す。発育抑制のない子どもに比べ、生まれる時や生まれた後の健康に問題が生じる割合が高めであることに注意しながら、出産時や出生後の健康状態の経過が観察される。
注3 ばく露:化学物質などの環境要因にさらされることを指します。
注4 出生コホート調査:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかなどを調査します。

発表論文

題名(英語):Associations of maternal urinary nitrophenol concentrations with adverse birth outcomes and neurodevelopment delay at 4 years of age: The Japan Environment and Children's Study

著者名(英語):Kayo Kaneko1, Yuki Ito1, Takeshi Ebara1,2, Hiroshi Yatsuya3, Mayumi Sugiura-Ogasawara4, Shinji Saitoh5, Makiko Sekiyama6, Tomohiko Isobe6, Michihiro Kamijima1, and the Japan Environment and Children’s Study Group7
1金子佳世、伊藤由起、上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科 環境労働衛生学
2榎原 毅:産業医科大学 産業生態科学研究所 人間工学研究室
3八谷 寛:名古屋大学大学院医学系研究科 国際保健医療学・公衆衛生学
4杉浦(小笠原)真弓:名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科学
5齋藤伸治:名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学
6関山牧子、磯部友彦:国立環境研究所 環境リスク・健康領域
7グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:Environmental Research. Volume 264, Part 1, 1 January 2025

DOI: org/10.1016/j.envres.2024.120290