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既存治療に抵抗性の新生血管型加齢黄斑変性におけるヒト(同種)皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞シート(PAL-222)移植の第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験(治験)(試験名:PRESERVE試験)の治験開始について


2025年3月、国立大学法人山口大学(山口市、学長:谷澤幸生)とファーマバイオ株式会社(本店所在地:名古屋市、代表取締役:草野 仁)は、「既存治療に抵抗性の新生血管型加齢黄斑変性に対するヒト(同種)皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞シート(PAL-222)移植の臨床試験(Progression Suppression and Retinal Regression in VEGF-resistant AMD: PRESERVE試験、登録番号 jRCT2063240083)」(以下、「本試験」といいます。)の実施に関する契約を締結し、この度、第一例目の移植手術が完了したことを報告いたします。
本試験は、山口大学 大学院医学系研究科 眼科学講座及び細胞デザイン医科学研究所(木村和博教授)の支援のもと、山口大学医学部附属病院を実施医療機関として開始されました。

PAL-222は、名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学分野 安川 力教授による世界初の独自開発技術、すなわち、細胞自身が産生する細胞外マトリックス成分(注1)のみから構成されるブルッフ膜様構造を伴う細胞シート作製技術を基盤とし、ファーマバイオ社が内因性の足場構造を伴う細胞シート化技術として独自に応用、発展させ、この技術によりヒト(同種)皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞をシート化した再生医療等製品です。なお、PAL-222は、臨床試験開始に先立って実施された非臨床試験(毒性、造腫瘍性試験等の安全性試験ならびに網膜保護効果を確認する薬効・薬理試験など)により安全性および有効性が確認されております。
本試験は、既存治療に抵抗性を示す新生血管型加齢黄斑変性患者を対象に、PAL-222を移植したときの有効性及び安全性を探索的に確認する、第Ⅰ/Ⅱa相、非遮蔽・非無作為化比較試験であり、組み入れ予定症例数は10例です。

「加齢黄斑変性(AMD; Age-related Macular Degeneration)」は、ものを見るときに重要な役割を持つ網膜の中心部の「黄斑」に障害があらわれる病気です。加齢との関係が深く、視覚による身体障害の原因の第4位(参考1)になっています。50歳ごろから発症し、男性に多く起こることが特徴で、年齢が高くなるにつれて発症率が上がります(参考2)。黄斑には多くの神経が集まっており、この黄斑の細胞が、老廃物(ドルーゼン(注2))などの影響により障害を受ける(萎縮型)だけでなく、老廃物排除に関係する慢性炎症の結果、黄斑に生じる黄斑新生血管※3から血液成分が漏れる(新生血管型)ことにより、視機能を急激に悪化させることが本疾患の特徴です。日本人のAMDのほとんどは、新生血管型AMDですが、近年のバイオ技術の進歩により、抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法が定着し予後は改善したものの、長期の経過で抗VEGF療法に抵抗する症例も多く、本疾患が抗VEGF療法に治療抵抗性となる要因に、網膜機能の安定に大変重要な働きのある「網膜色素上皮(注4)」の欠損や萎縮(疲弊)が関与することが考えられてきました。現時点において、抗VEGF療法に治療抵抗性の症例への治療法は存在せず、本試験の今後の結果が期待されるところです。

今回、移植手術を担当した治験責任医師である山口大学医学部附属病院の平野晋司講師は次のように述べています。
「本試験は新生血管型加齢黄斑変性治療において大きな進歩となった抗VEGF療法を補完する大きな支えとなることが期待されます。加齢黄斑変性への新たな一歩として、一日も早くこの製品が承認されることを期待しております。」

また、ファーマバイオ株式会社は次のようにコメントしています。
「木村和博教授、平野晋司講師を始め、対象患者選定に多大なるご尽力をいただいた湧田真紀子講師、技術移転に多くの貢献をいただいた東島史明助教を含む山口大学病院眼科グループの皆様には、弊社との共同研究契約のもと、本試験の速やかな実現に向けて多大なるご尽力をいただき、心より感謝申し上げます。また、本試験に参加された患者様と御家族の皆様、そして関係者の皆様のご協力に感謝するとともに、一日も早く疾病に苦しむ方々のお役に立てるよう、PAL-222の可能性を更に追求して参りたいと考えております。」

(参考1)日本眼科学会雑誌.118:495-501, 2014若生里奈、安川力ら
(参考2)Yasuda M et al; Ophthalmology 2009;116:2135-40

黄斑部の断面図(イメージ)

黄斑部の断面図(イメージ)

[PAL-222について]
PAL-222は、名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学分野 安川 力教授の独自技術である、世界初の細胞自身が産生する細胞外マトリックス成分のみから構成されるブルッフ膜様構造を伴う細胞シート作製方法を、ファーマバイオ社が応用して開発した内因性の足場構造を伴う間葉系幹細胞シートです。細胞懸濁液(注5)の移植と比較して、①細胞生着率向上②(視機能改善、維持につながる)移植細胞の機能発揮 ③合併症リスク軽減等の可能性をもつとともに、間葉系幹細胞の特性である同種拒絶反応を起こしにくく、種々の成長ホルモン、サイトカインを分泌することにより、周囲の組織機能の賦活化・保護効果を有することが期待されます。

[ファーマバイオ株式会社について]
社名:ファーマバイオ株式会社/PharmaBio Corporation
代表取締役:草野 仁
設立:2010年(有限会社より移行して設立)
事業内容:再生医療等製品の研究開発、再生医療等製品の開発製造受託サービスおよび受託検査サービス
URL:https://www.pharmabio.co.jp/

【用語解説】
注1 細胞外マトリックス成分:細胞が接着したり、組織を形作ったり、外力に抵抗するために必要な成分で、細胞から作られるコラーゲン線維(膠原線維)や弾性線維、その他、多くの物質からできています。
注2 ドルーゼン:網膜組織が機能することにより産出される代謝産物(老廃物)は、一般に網膜色素上皮(注4)により処理・輸送・代謝されますが、この網膜色素上皮の機能低下により、この老廃物は網膜色素上皮下に滞積します。局所に滞積して眼底検査で検出できるものをドルーゼンと呼びます。このドルーゼンの存在は老廃物の滞積を示唆し、炎症が惹起され、新生血管の誘導する新生血管型や組織破壊による萎縮型のAMD病態に関与すると考えられます。
注3 黄斑新生血管:網膜外層組織への栄養や酸素は、脈絡膜に存在する毛細血管から、網膜色素上皮(注4)を通じて供給されます。ドルーゼンなど老廃物を介した炎症などの刺激を受けると、脈絡毛細血管板から、時に網膜の血管から、ひ弱な新しい血管を毛細血管から分岐します。これを黄斑新生血管と呼びます。これは、新生血管型加齢黄斑変性に特徴的な病態の一つです。
注4 網膜色素上皮:網膜の一番外側にある1層の細胞で、網膜の視細胞のメンテナンスや栄養物質や老廃物の輸送や代謝、脈絡膜からの血液の不要な成分の移動を遮断して、網膜の光を感受する高度な機能を支えています。網膜機能維持に網膜色素上皮は不可欠で、萎縮すると脈絡毛細血管板、網膜の視細胞も萎縮してしまいます。
注5 懸濁液:固体微粒子が混じった液体を意味しますが、この場合、バラバラの細胞を含む液体のことで、シート状でなくバラバラの細胞の状態で移植する手段を示します。