学部・研究科・附属病院の歴史
学部・研究科・附属病院の歴史
平成27年(2015)4月、芸術工学部は設立から20年目を迎えた。芸術工学部と同窓会である萱光会は共同で記念事業の実行委員会を組織し、11月21日にシンポジウムを開催した。冒頭で触れた『名古屋市立大学芸術工学部20周年記念誌』は、この記念事業の一環として編まれたものであった。
また、芸術工学部では20周年を機に未来プラン「希望と共感のデザイン」を制定した。これは前年に名古屋市立大学が基本理念、行動指針となる「大学憲章」を制定し、将来を見据えた行動計画の「名市大未来プラン」を策定したことを受けたものであった。
未来プランの骨格は以下に示すが、大枠としては、大学院における教育研究環境の充実と地域のデザイン拠点として社会貢献を目指すものである。ベースとなったのは、設立時に議論された芸術工学部の理念で、ここに立ち返りながら15年後の未来を想定したものでもあった。
要点を摘記すると、まず芸術工学という学問領域は「デザイン」をキーワードとし、理論と実践の両立している点に特色がある。また、名古屋を中心に「ものづくり」が集積したこの地域で、関係者が積み上げた実績を生かすこと、そしてバーチャルからリアルに至る様々な環境を想定し、人々が文化的な生活を享受できるデザインに取り組むことを目指すものである。未来に向けては、地域と共に発展した芸術工学部の組織を成熟させる一方、スタッフが大きく入れ替わる中で設立時の「景観」と「健康」をキーワードとした理念を継承することである。
理念の継承を強調しているのは、15年先を見据えると社会における大学の役割や運営体制が大きく変化することが予想されるためである。昨今、目覚ましい技術革新により便利になったことが増えた反面、少子高齢化や自然災害などの不安要素があり、解決すべき問題が複合化、複雑化している。例えば、平成23年(2011)3月11日の東日本大震災をはじめ、熊本地震(平成28年(2016)4月14日ほか)や全国各地での風水害など自然災害が相次いでいるし、令和2年(2020年はじめの新型コロナウィルスの世界的な蔓延は、大学はもとより社会構造そのものの変革を促している。こうした状況下の社会貢献で重要なのは表層のデザインではなく「コトのデザイン」で、そのためには芸術工学の理念に立ち返り、地道で着実な研究教育活動を持続することが求められるのである。
さらに、大学に限っても奥山健二の指摘通り、2018年問題は無視できなくなっている。これは、平成30年(2018)をピークに18歳人口の減少が始まることで、大学の定員割れが著しくなることを前提としている。そして文部科学省は、大学政策として一部の国立大学を国際化に上位を目指す研究拠点の大学、地域の人材を育て定着させて大都市に集中する若年層を地域に定着させる教育機関としての地方国立大学や公立大学という棲み分けを迫る、改革を進めている。つまり、国が正式に大学の差別化しているのである。
こうした改革は厳しく聞こえるが、奥山は地方の視点に立って大学が担う役割を示している。その役割とは地方都市の人口減少を食い止め地域に定着させる、あるいは経済的な観点から都市を成り立たせるための地域産業の発展、都市基盤維持のため経済的省エネ対策などを考慮した都市空間のコンパクトシティ化にもむすびつけることである。すなわち、大学は、日本の将来の人口減少と地方再生・創世の主要組織として期待されていると捉えることも可能であるというのである。
一連の中央審議会の答申に始まった入試改革の到達点として、文部科学省の関連機関である高大接続システム会議の最終報告に基づき教育改革が行なわれ、令和3年(2021)度入試からセンター試験に代る共通テストが始まる。これに伴い、芸術工学部でも求める学生像を明確にし、アドミション・ポリシーや入試科目と配点の見直しなどを進めている。
ちなみに、創立20周年を記念した『芸術工学への誘い』(vol。20、2015年)には、創設期を支えた名誉教授らから「創設時の「あるべき大学の理念が崩れていく噂」だけが届く」や「3学科になり、それぞれの領域が良く言えば独自な専門領域を守り、それに反して領域を跨ぎ・超越し総合した芸術工学は困難であったようだ。専門領域に分かれて芸術工学として、融合・ハイブリッド化する努力が見られず「芸術と工学を超越してのものづくりやことづくり」の総合的なモチベーション・力になっているようには見えないのが残念である。」といった言葉が記されている。また、20周年の記念シンポジウムでは、この10年の変化を「叱りに来た」パネラーも登壇した。複雑化する社会に正解はないものの、手厳しい指摘を包み隠さず、オープンに議論ができる土壌を培ったことは芸術工学部の20年の成果といえるだろう。
I 未来プラン作成のスタンス
II 創設から未来に向けて
III 教育研究の理念と領域
IV 教育研究環境の特色
V 未来プランの骨子
VI 未来プランにおける行動目標と達成手段
VII 未来プランの推進に向けて