学部・研究科・附属病院の歴史

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医学部・医学研究科

研究室紹介

生体機能・構造医学専攻
生体情報・機能制御医学専攻
生体防御・総合医学専攻
予防・社会医学専攻

生体機能・構造医学専攻 

基礎医科学講座

統合解剖学分野

教授 植木 孝俊
准教授 井上 浩一
講師 佐久間 秀輔、扇谷 昌宏

総合解剖学分野手術の模様 統合解剖学分野(教授 植木孝俊、准教授 井上浩一、講師 佐久間英輔、扇谷昌宏)  
 本分野は、医学部では解剖学(系統解剖学講義・実習、骨学講義・実習)を担当しております。現教授の植木は平成26年に着任し、前任の池田教授から引き継いで6年の比較的若い研究室です。本分野は、現在、研究においては下記を軸に精神神経疾患の病理の理解と診療法の創出をねらいに、国内外の研究者との協働を推進しています。
 1.グリア細胞ネットワークの作動原理の解明と、その障害が神経変性疾患、特に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態に及ぼす影響に関する分子遺伝学的研究。 2.腸内環境-脳内環境相関の分子基盤と、その破綻が脳機能発現の障害を来す病理の理解を、腸内細菌叢、腸管神経叢、神経免疫系、腸管内分泌系などに着目しながら行い、消化器系を治療標的とする精神神経疾患、特に、パーキンソン病、自閉スペクトラム症などの治療法を創出するための神経解剖学的、分子遺伝学的研究。3.癌幹細胞の生体内動態を描出するための分子イメージング技術、特に癌幹細胞のPETトレーサーの創製をねらいとした核医学的研究。 4.臨床医療デザイン学分野(植木と皮膚科森田教授が教授を併任)との協働による人工知能、ディープラーニングを基軸とした画像診断技術の開発、および、人工意識(AC)の数理工学的研究
 一方で、本分野は、平成29年に学内外の臨床医を対象とした我が国最大規模のご献体による手術手技研修のための専用施設(先端医療技術イノベーションセンターCST施設)を立ち上げ、以来、外科学分野の高度な医療技術を持つ人材の養成にも努めています。

機能組織学分野

 機能組織学分野は、解剖学教育を担う医学部基幹講座の1つであり、組織学・発生学・神経解剖学の講義、組織学実習・肉眼解剖学実習の一部を担当しています。医学大系の最根幹に位置する解剖学は、肉眼解剖学と組織学(顕微解剖学)とに大別されます。肉眼解剖学は臨床医学に直結しますが、組織学は、言わば基礎医学研究に直結します。組織学を教える際には、少しでも学生さんたちの科学的センスを養うことができるように、細胞や組織の名称のみならず、形態と機能との関連に重点を置いて説明しています。
 研究面では、主にイオンチャネルやGタンパク質共役型受容体などの膜タンパク質にスポットを当て、それらの生理的役割を調べています。具体的には、中枢神経系に広く発現する新規リーク型イオンチャネルの機能解析、海馬新生神経の成熟に関与するイオンチャネル分子の同定、聴覚・平衡覚・味覚受容体遺伝子の探索などを行っています。また、多くの診療科と共同しながら、心臓、気管、消化管、膀胱など、様々な器官・臓器に発現する分子の病態生理への関与も調べています。実験には、電子顕微鏡法、免疫組織化学法、in situハイブリダイゼーション法などの形態学的手法を多用しますが、カルシウムイメージング法、パッチクランプ法などの生理学的・薬理学的手法、リアルタイムPCR法、レトロウイルス遺伝子導入法、免疫沈降法などの分子生物学的・生化学的手法もよく使います。また、ゲノム編集技術を使って遺伝子改変動物を作出し、行動解析なども行っています。少人数の分野ですが、オリジナリティーの高い研究成果を挙げ、本学に新しい研究の柱を作りたいと考えています。

(文責:鵜川 眞也(教授))

神経生科学分野

 2012年に病態生化学分野(その後、2020年に神経生化学分野に名称変更)教授として道川誠が就任し、新たなスタートを切った。教員スタッフには、准教授に鄭且均および鄒鶤、講師に辻田麻紀がいる(2020年4月)。研究は、主にアルツハイマー病研究であり、(1)発症メカニズムにおける危険因子であるapolipoprotein Eの役割の解明、(2)原因分子であるAβの産生・分解・代謝機構の解明とその制御方法の検討、(3)糖尿病のアルツハイマー病発症機構における役割の解明、(4)転写調節因子ATBF1がアルツハイマー病分子病態に果たす役割の解明、(5)AB変換酵素ACEの活性制御によるアルツハイマー病分子病態調整に関する研究、(6)アルツハイマー病の新規血液診断マーカー開発等である。特に、2019年末にアディカヌマブ(抗体療法)が米国FDAに新薬申請され、根本的治療薬(疾患修飾薬)が、上市される可能性がでてきたことから、簡便で安価な診断マーカーの開発は、今までとは異なる次元でその重要性が高まっている。
 本研究室には、多くの海外留学生が所属し、研究活動していることが大きな特色である。道川が就任以後、国籍別では、博士課程に日本4名、バングラデシュ3名、エジプト1名、中国3名、修士課程に日本2名、エジプト1名、中国1名、博士研究員としてバングラデシュ1名、インド1名が所属した。教室における各種会議や個別のディスカッションは、すべて英語で行われている。
 2019年10月には、脳神経科学研究所(脳研)が設置され、認知症や発達障害等、様々な脳神経疾患の発症機構解明と予防・治療法開発を目指した先進的な研究が開始された。今後も、脳研や臨床教室と連携を強化し、共同研究を積極的に推進することによって、わが国におけるアルツハイマー病研究の1つの拠点になるように活発な研究活動を行っていきたい。

細胞生化学分野

 細胞生化学分野は2018年1月より教授以下全ての教員が国内外の研究機関から着任し、新しくスタートしました。
 我々の研究室では「繊毛」と呼ばれる細胞小器官に注目しています。繊毛は細胞表面から伸びるアンテナ状の小器官で、ヒトのほぼ全ての細胞に存在しています。長らくその存在だけは知られていました。しかしながら、近年の研究の著しい進展によってその機能の重要性や疾患との関連性が注目を集めるようになりました。繊毛は一次繊毛(非運動性繊毛)と運動性繊毛に大きく分類されます。一次繊毛は外部からの刺激を受信して細胞分化、細胞遊走、細胞内シグナル伝達などを制御します。一方、運動性繊毛は脳脊髄液の流れの形成、気管での異物の排除、臓器の左右非対称性の決定、生殖などに携わっています。繊毛の構造また機能の異常は、精神遅滞、腎嚢胞、網膜色素変性症、骨格異常、不妊、内臓逆位などの多岐にわたる疾患を引き起こし、総称して繊毛病と呼ばれています。繊毛の構成に関わる遺伝子群の変異は繊毛病の原因として報告されており、それらの遺伝子の機能解析は繊毛病の病態を理解する上で重要なカギとなります。昨今、癌や糖尿病などの疾患と繊毛の関連性が指摘され、これらの疾患で繊毛の果たす役割も注目されてきています。
 我々の研究室では、分子生物学、細胞生物学、発生生物学、タンパク質工学を専門とするメンバーが、繊毛形成の機序、繊毛の機能、繊毛の異常に起因する先天性疾患の発症機序、癌などの繊毛との関連が報告されている疾患での繊毛の役割に焦点を当て、我々の専門性を生かした様々なアプローチでこれらの問題を解決し、疾患の治療法の確立に繋がるような研究を目指し日々精進しています。

細胞生理学分野

 細胞生理学分野(旧 第一生理学教室)の始まりは、名古屋女子医学専門学校時代の昭和18年(1943)に遡り、初代教授として新田初雄(名古屋帝国大学医学部助教授)が昭和19年(1944)6月に赴任した。新田教授の主要研究テーマは汗腺・唾液腺などの外分泌腺分泌機構であったが、線維素溶解現象の研究も盛んに行われた。第2代教授には第二生理学教室(現 脳神経生理学分野)助教授であった堀田健が昭和46年4月(1971)に着任した。堀田教授は、骨格筋の収縮機序を収縮タンパクのレベルで探求したが、平滑筋の収縮タンパクや電気生理学的研究も開始され、筋生理学は今日に至るまで続く当分野の伝統となっている。第3代教授には、電気生理学的手法による平滑筋研究を専門とする鈴木光(九州大学医学部講師)が平成元年8月(1989)に赴任した。鈴木教授は、平滑筋の神経性制御に加えて、内皮細胞による血管平滑筋機能調節、カハールの間質細胞の消化管自動運動ペースメーカー細胞としての機能などの研究を発展させた。平成22年(2010年)10月からは、橋谷が准教授から昇任して第4代教授として今日に至っており、現在の主要な研究テーマは、尿路、消化管、微小血管などの平滑筋自動性の発生制御機構である。平滑筋の特徴は、平滑筋とその周辺細胞が臓器・組織ごとに異なった強度で連携していることである。そのため分野名には「細胞」とあるが、細胞間の機能的連絡が保たれている組織標本を用いた研究が当分野の大きな特徴となっている。医学部の生理学教育では、脳神経生理学分野が脳を中心とした運動、感覚(動物機能)を主に担当し、当分野は自らの意思によって制御できない循環、消化など(植物機能)を担当している。

脳神経生理学分野(生理学第二講座)

 本講座は、医学部生理学第二講座として昭和32年(1957年)に開講し、大原幸吉先生が初代教授にご就任された。大原教授のご専門は体温調節・発汗生理学であり、名大を中心に中部地区で盛んであったこの研究分野を牽引された。医学部長もご経験になり、惜しくも定年直前にご逝去された。第二代目の西野仁雄教授は富山医科薬科大学准教授から昭和63年(1988年)1月に教授にご着任になり、九大の視床下部研究の流れを受け、非常に注目された神経細胞移植のパイオニアとしてご活躍になられた。2003年には日本神経科学会の大会長も務められた。大学では医学部長、初代理事長/学長として様々な改革を実行し大きく貢献された。平成21年(2009年)2月に本学出身の飛田が第3代教授に就任し、西野教授が築かれた再生・再建医学の基礎研究を低酸素虚血性白質傷害(脳性麻痺モデル)への細胞移植という形で展開している。最近では脳内出血モデル後のリハビリテーションによる機能回復メカニズムの基礎的研究も展開し、一定の評価を受けている。発育期の情動形成メカニズムの解析と発育期の運動障害に対する再生・再建を大きなテーマに掲げ、生理学的アプローチから展開している。
 2021年3月28〜30日には、日本解剖学会と合同で日本生理学会大会を本学が主催することになり、両生理学講座のこれまでの諸先輩方/スタッフの努力が評価された証であり、非常に喜ばしい限りである。