学部・研究科・附属病院の歴史
学部・研究科・附属病院の歴史
経済学部の創設当初から、教員の個別的な海外学会出張や在外研究は行われていたが、正式
な国際交流協定を締結し、研究者の交流や学生の留学が行われるようになったのは1990年代の初頭になってからであった。この背景には、著しい国際化・グローバル化の進展があった。令和2年(2020)4月現在、名古屋市立大学は46大学と大学間交流協定を、18大学と学部間協定を結ぶに至っている。以下、本学の国際交流協定において、経済学部・経済学研究科教員が中心的な役割を担った提携校をいくつか紹介しよう。
経済学部最初の交流協定締結先は、名古屋市の姉妹都市シドニー(オーストラリア)に立地し、経済学部に在籍していた教員・多和田眞助教授(当時)が学位を取得した母校、ニューサウスウェールズ大学(以下、UNSW)であった。多和田助教授と恩師であるマレー・ケンプ教授との研究交流が礎となった。国際交流委員や多和田助教授、当時の第15代経済学部長・根津永二教授、そしてUNSW商学部長等の粘り強い努力を経て、平成2年(1990)11月21日にUNSW商学部経済学科との研究者交流に関する協定が締結された。さらに翌年には学生間の留学に関する協定も締結された。以来、今日に至るまで、ほぼ毎年、経済学部教員1名、学生1、2名が、UNSWとの国際交流協定にもとづいて、同大学を訪れている。
アジア諸国の興隆を背景に、平成9年(1997)10月には、中国社会科学院日本研究所と学部間交流協定が締結された。第18代経済学部長・塩見治人教授が交流を立ち上げ、経済学部教員等15名からなる訪中団が結成され、北京にある社会科学院日本研究所で「日中合同経済発展討議会」が開催される運びとなった。また逆に、翌年には、同日本研究所の研究者を名古屋に招いて「日中学術交流会議名古屋大会」を開催し、多くの教員が参加した。
2000年代に入っても国際交流協定締結先は拡大し、平成19年(2007)5月に締結されたパリ第13大学との大学間交流協定では、第24代経済学部長・井上泰夫教授が中心となり、同大学との合同国際セミナーやEU経済セミナーを開催した。
韓国の南ソウル大学(平成23年(2011)4月)、ドイツのルートヴィクスハーフェン経済大学(同年12月)との大学間交流協定では、第23代経済学部長星野優太教授が尽力し、学生の国際交流が活発化する契機となった。
平成29年(2017)6月にはミシガン州立大学との大学間交流協定が結ばれた。同大学のマーク・スキッドモア教授と外谷英樹教授が長年にわたり研究交流を積み重ねてきた功績である。さらに同年7月のベトナム貿易大学との大学間交流協定は、同大学ナム准教授と樋口裕城講師の研究協力関係が大きく貢献した。
令和を迎える直前の平成31年(2019)2月に締結されたイタリアのヴェローナ大学との大学間交流協定では、同大学から研究者を招聘するなど内田真輔准教授が中心的な役割を果たした。
経済学部創設以来のもうひとつの懸案事項は研究所の設置であった。研究所の設置構想は、当初は経済学部単独の構想としてではなく全学的な構想として企画され、経済学部の創設された昭和39年 (1964)度には、大学附置の研究所として「産業科学研究所」構想が打ち出されていた。
その後、この全学的研究所の具体化が停滞するなか、1970年代以降、経済学部は独自に「都市問題研究所」構想を打ち出し、大学や名古屋市との折衝に当たったが、名古屋市の「名古屋市都市センター」構想との競合もあって、この経済学部附置の研究所構想も実現しなかった。
最終的に経済学部附置の「経済研究所」構想が企画され具体化されてきたのは平成3年(1991)以降であり、1995年(平成7)に附属研究所設置準備室が開設され、翌平成8年(1996)4月、ついに「経済学部附属経済研究所」が発足した。初代の研究所長には京都大学経済研究所教授であった福地崇生教授が就任した。
附属経済研究所は、発足以来、国際的視野に立って地域の経済・経営問題を探究することを目的とし、毎年度ほぼ3件のプロジェクト研究を進め、その成果を「プロジェクト研究報告会」(毎年3月開催)で発表した上で、機関誌『国際地域経済研究』(年刊)に掲載するとともに、「公開シンポジウム」を毎年開催し、研究者のみならず一般市民に公開してきている。
発足当初は教授3名の専任制であったが、研究分野を広げ経済学部(経済学研究科)全体の研究活動や社会貢献活動の一層の活発化を図るため、平成18年(2006)度以降は、経済学部(経済学研究科)の中からプロジェクト研究テーマを募り、そのテーマに沿って研究を進めるグループの中心となる教員(研究代表者)を所員とする体制に移行した。
テーマの変遷は次のとおりであり、各時期の問題状況を反映してきたことが見て取れる。
第1回(平成7年2月4日) | これからの企業にはどんな人材が必要か |
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第2回(平成7年11月9日) | 日本経済の新たな課題――超天井への挑戦 |
第3回(平成8年11月7日) | 日本の未来・未来の名古屋 |
第4回(平成9年11月5日) | エネルギーと環境の調和――明日のエネルギーと市民生活を考える |
第5回(平成10年10月12日) | 21世紀の日中経済を考える――日中経済関係のパラダイム転換 |
第6回(平成11年6月27日) | 公的年金と個人年金――豊かな老後のために |
第7回(平成14年11月29日) | 経済の国際化と東アジア――“グローバリゼーション”の意味を考える |
第8回(平成15年11月21日) | 安心して老いられるか?――“終の住処”としての介護施設の現状と介護サービスの質 |
第9回(平成16年12月3日) | シルバー・パワーが拓く地域社会 |
第10回(平成17年11月25日) | 行政サービスと公務員の役割――民間委託のメリット・デメリット |
第11回(平成18年12月7日) | 団塊世代の退職と将来の労働力不足への対応――高齢者・女性・外国人労働者の活用 |
第12回(平成19年11月16日) | どうなる?どうする?名古屋の税制――地方分権時代の大都市税制を考える |
第13回(平成20年11月28日) | 公立病院はどこへ行くのか――地域医療と経営改革 |
第14回(平成21年12月11日) | ひがしやま動植物園の新しい役割を考える――ニーズのギャップを探る |
第15回(平成22年11月27日) | 名古屋市の産業再生と成長戦略を考える――新時代の中小企業政策とは? |
第16回(平成23年11月18日) | 地域の環境をどのようにして守るのか――四日市公害を手掛かりとして |
第17回(平成24年11月9日) | 21世紀の名古屋市を展望する |
第18回(平成25年11月9日) | データで見る経済と経営 |
第19回(平成26年11月22日) | 地域企業の国際化――尾張と三河、繊維と自動車産業の比較 |
第20回(平成27年11月20日) | 市場間競争時代における証券取引所の果たす役割 |
第21回(平成28年11月23日) | いまから考えよう20年後の老後 |
第22回(平成29年11月23日) | “伝える”を考える |
第23回(平成30年12月13日) | 名古屋の“働き方改革”は今 |
附属経済研究所が設置された平成8年(1996)度は、名古屋市立大学全体にとっても大幅な組織改革が行われた年であり、教養部の廃止と名古屋市立女子短期大学・名古屋市立保育短期大学の名古屋市立大学への統合により、経済学部の立地する山の畑キャンパス(現在の滝子キャンパス)に「人文社会学部」と「自然科学研究教育センター」(平成12年(2000)度に「大学院システム自然科学研究科」に改編)が創設され、名古屋市立女子短期大学が立地していた北千種キャンパスに「芸術工学部」が創設された。なお、平成11年(1999)度には名古屋市立大学看護短期大学部が4年制の「看護学部」に改編され、名古屋市立大学は6学部1センターを擁する文字通りの総合大学となった。
名古屋市立大学が上記のような組織の拡充を図りつつあった1990年代の初め頃から、わが国では、大学で教育すべき知識や理解の高度化の必要性の高まりなどから、専門教育の重点を大学院に移し、学部教育はその準備段階とするという「大学院重点化」の動きが見られるようになってきた。東京大学をはじめ有力な国立大学を中心として、教員の所属を大学院に置き、大学院に所属する教員が学部教育を兼任とする「大学院部局化」が進められ、大学院の入学定員を大幅に増加する改革が進められた。
名古屋市立大学でも大学院重点化の方向が検討され、平成14年(2002)度には学部創設後まもない看護学部を除く6研究科において、大学院部局化が実施され、経済学部においても、教員の所属は大学院経済学研究科となり、経済学部の教育を兼任することとなった。
大学院部局化は、大学院重点化の第一歩であり、重点化の推進のためには、大学院の拡充を図り、入学定員を増加させる必要があった。そこで経済学研究科では、平成17年(2005)度より、従来の社会人大学院(修士課程)を博士課程に統合しつつ、経済学研究科を「日本経済・経営専攻」と「経済政策分析専攻」の2専攻体制とし、両専攻合わせて博士前期課程の入学定員を40名(従来は、博士前期課程(経済政策専攻)10名、修士課程(日本経済・経営専攻)15名の計25名)、博士後期課程の入学定員を10名(従来は5名)とした。
この大学院の再編は、大学院重点化の一環であったが、かねてから要望の強かった社会人大学院の博士(後期)課程設置の実現も併せて図るものであった。「日本経済・経営専攻」が後期課程にも設置された。また同時に、博士前期課程における社会人特別選抜制度の募集人員を博士前期課程全体の入学定員の半数の20名と新たに定め、従来の修士課程の入学定員よりも5名増員となった。なお、残りの定員20名は、(他大学を含む)学部からの進学者と外国人特別選抜制度の適用を受ける外国人留学生に充てられた。こうした大学院の再編の結果、博士前期課程を修了した社会人の後期課程への進学が大幅に増加した。
平成20年(2008)度に、経済学研究科は「経済学専攻」と「経営学専攻」に再編された。これにより、入学定員や入試方式ごとの募集定員の変更は行われなかったものの、同系列の専門分野の教員が同一専攻に所属するようになった。「経済学専攻」には、経済理論、経済政策Ⅰ、経済政策Ⅱ、制度・歴史の4つの研究教育分野(系)、また「経営学専攻」には、経営、会計、ファイナンス・情報の3つの研究教育分野(系)がそれぞれ置かれ、大学院生の研究指導や研究科内の各種審議がより円滑に行われるようになった。
平成18年(2006)度に名古屋市立大学は、名古屋市の一部局という従来の位置づけを離れ、名古屋市とは独立した組織の「公立大学法人名古屋市立大学」となった。この独立行政法人化により、名古屋市立大学(附属病院を含む)は、6カ年を1期とする中期計画(中期目標)を立て、これに沿った年度計画の立案・実施・実績評価を行うこととなり、名古屋市の設置する「名古屋市公立大学評価委員会」による業務実績評価を受けることとなった。また、財政的には、授業料・入学金・入学検定料収入(平成24年度決算24.9億円、収入構成比7.2%)、病院収入(同217.0億円、62.6%)、受託研究収入等(同27.1億円、7.8%)の独自収入と名古屋市から交付される運営交付金(同64.1億円、18.5%)や施設整備費補助金(同13.6億円、3.9%)によって、人件費(平成24年度決算158.2億円、支出構成比47.1%)、診療経費(同125.1億円、37.2%)、教育研究経費(同19.1億円、5.7%)、施設整備費(同15.0億円、4.5%)、受託研究費等(同48.7億円、5.6%)の支出を賄う体制となった。
公立大学法人化という大学組織の大変革が行われた翌年の平成19年(2007)度に、経済学部は3学科体制に移行した。
経済学部における新学科の増設は1990年代後半に検討され、平成10年(1998)には「経済・経営システム法学科」設置構想が提起されていた。しかし、この構想は、教員定員の増員による学科増設が難しいこと、「経済・経営システム法学」の意味付けが必ずしも明確でなかったことなどから立ち消えとなり、大学院の改編が一段落した平成17年(2005)度から、既存の教育内容を拡充・再編する形での学部改組・学科増設が検討された。およそ1年半にわたる議論の結果、経済学部に公共政策学科・マネジメントシステム学科・会計ファイナンス学科の3つの学科を新たに置くこととなった。
3学科体制への移行に伴い、経済学部の入学定員は200名から230名に増加された。学科別の定員の振分けは公共政策学科90名、マネジメントシステム学科80名、会計ファイナンス学科60名とされた。
こうして、従来の経済学科系の1学科と経営学科系の2学科のそれぞれにおいて体系的な教育が行われる体制となったが、同時に2学科制の際にも重視された幅広い分野の履修機会の確保への配慮も行われている。そのことは、入学試験は経済学部一本で行われ、1年生の間は広い分野の入門的科目(学部共通科目)をほぼ全員が履修し、学科の選択は2年進級時に行われることに現れており、また2年次以降においても、他学科で開講される「学科基礎科目」や「応用展開科目」を科目履修して卒業要件単位に部分的に組み入れ可能である(科目の制限や単位数の制限はある)ことに現れている。
中日新聞社による寄附講座
「現代経済・経営特論I」
初回(2016年4月11日)
3学科体制への移行を契機として、経済学部における教育は、理論と政策そしてその実践のバランスに配慮した内容を志向するようになってきた。
その現われの一つが、寄附講座や連携講座の拡大である。平成22年(2010)度には、経済学部同窓会「瑞山会」による寄附講座として「日本経済・経営I」(隔年開講)が開設された。これを皮切りに、平成25年(2013)度には日本税理士会連合会の寄附講座として本学経済学部・経済学研究科出身の税理士による「特別講義Ⅴ」、平成27年(2015)度には東海財務局による「現代経済・経営特殊講義」、平成28年(2016)度には中日新聞社による「現代経済・経営特論I」、平成30年(2018)度には経済学研究科同窓会「剣陵会」による「日本経済・経営Ⅱ」(隔年開講)が開設された。また連携講座としては、愛知中小企業家同友会による「地域企業活性化論」に加え、平成28年(2016)度に名古屋市役所による「名古屋と行政」が開設された。
中日新聞社による寄附講座
「現代経済・経営特論I」
初回(2016年4月11日)
経済学部創立から57年目、2020年度現在の経済学部設置科目の一覧は次のとおりである。
注:科目名の後に(4単位)と記載された科目以外は、すべて2単位科目である。
「必」は必修科目、「選必」は2科目中1科目が必修であることを示している。
「他」は他学科の開設科目であり、16単位を限度として自学科の「応用展開科目」(卒業要件単位にカウント可能)に繰り入れることが可能な科目である。
「応」は他学科で開設される「学科基礎科目」のうち、自学科の「応用展開科目」としてカウントできる科目である。
名古屋市立大学ホームページに「見る・聞く・知る 名市大」というコーナーがあり、そのなかに「在校生の声」や「卒業生の声」の項目があります。経済学部・経済学研究科からも複数名がインタビューに答えており、近年の在校生・卒業生の様子や学内の雰囲気が伝わるものとなっています。
名古屋市立大学ホームぺージ「見る・聞く・知る 名市大」
https://www.nagoya-cu.ac.jp/branding/index.html
文責:編集委員 藤田 菜々子